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第117話 どん底(S)

―—僕の家は代々医者の家系だ。


30年前のダンジョン発生以降も、医者はその仕事が失われる事はなかった。


ポーション類が劇的に普及したとはいえ、その効果は外傷的なダメージに限定されている。

なので内臓系の疾患やアレルギー。

遺伝や神経からくる病気などには全く効果がない。

そのため医者という職業は、このダンジョン全盛の時代においても、需要は失われることはなかったのだ。


僕の家は、祖父も、父も母も、そして二人の兄も医者になっている。

だけど、僕だけは医者じゃない。

頭が弱かったからだ。


ああ、別にどうしようもないほど馬鹿だったわけじゃないよ。

一応、成績は悪くない方だったからね。


……まあ、死ぬほど努力してたからってのもあるけど。


ただ僕は、家族の求める水準には。

そして医者になるだけの水準には、達していなかった。


だから両親は失望し、まるで空気の様に僕を扱うようになった。

上の兄二人もだ。


子供心に、どうして僕はこんなに無能なんだ。

なんて、あの当時は思った物だ。


そんな僕に転機が訪れたのは9歳の時。


有名なシーカーだったアルマイヤ・クワンガが来日し、抽選で鑑定を行う事が決まる。

学校の友人達は皆、こぞって申請していたので、僕も何となくそれに倣って申請を出してみた。


正直、特に期待はしてないかったのだが……僕は見事にその抽選に当選する。


そして当日、家から比較的近い場所だったので一人で会場へと向かい。

彼女の鑑定によって、僕はユニークスキル持ちのシーカーとして覚醒すると告げられた。


―—その事実に僕は喜んだ。


単にシーカーに覚醒するだけなら、喜ぶほどの事ではなかっただろう。

だが、ユニークスキルが手に入るなら話は変わって来る。


効果にもよるけど、ユニークスキル持ちのシーカーは大成する傾向にあったからね。


上手くすれば、僕もシーカーとして名を馳せる事が出来るかもしれない。

そしてそうなれば、僕を居ないものとして扱った家族を見返せるかもしれない。

そう思うと、喜ばずにはいられなかった。


ただ、その事を家族には報告しなかった。


アルマイヤさんに口止めされたと言うのもあるけど、もし覚醒した時に残念なクラスだったり、ゴミの様なユニークスキルだった場合、家族からどんな目を向けられるか分からなかったからだ。


だから僕は自分の覚醒を誰にも知らせず。

それとなく、体を鍛え始めた。


本格的に運動し始めて気づいた事だけど、僕は頭の方は今一だったけど、運動神経の方はかなり良かったみたいだ。

中学に上がる頃には、そこらじゅうの運動部から声がかかる程になっていた。


もちろん、それらはすべて断っている。

僕が目指すのは強いシーカーであって、運動選手ではないからだ。


因みに、覚醒者はプロスポーツ選手には基本的になれない。

一部例外はあるみたいだけど。


そして高校2年生の時、僕は遂に覚醒する。

レアクラスの中でもかなり優秀なクラスである、聖騎士。

そして、その聖騎士と相性のいい強いユニークスキル【根性】を持って。


それは満足のいく物だった。

早速僕はその事を家族に報告する。

だが――返って来た反応は冷ややかなものだった。


「魔物と戦う様な野蛮な力を得たからなんだというのだ」


「頭の悪いお前にはお似合いの仕事だな」


「お前みたいな半端な奴に仕事が務まる訳がないだろ。バカバカしい」


「まったく……医者になれないばっかりじゃなく、シーカーだなんて」


悔しかった。

やっと手に入れた希望だったのに、認めてくれないどころか、家族がそれすらも卑下した事が。


だから僕は誓ったんだ。

シーカーとして駆け上がって、見返してやるって。

そう、家族が無視できないぐらい有名になってやるんだ。


「そう誓ったんだけどな……」


順調だった。

自分から大手であるキャッスルギルドに売り込み。

そして次期エースという看板を受け。

何もかも順調だった。


―—あの事件が起きる前は。


鬼頭達の起こした反乱は、キャッスルギルドに大きなダメージを与えたのだ。

21人ものSランクシーカーを同時に失ったのもそうだが、キャッスルギルドの人の扱い方がSNS上で叩かれまくる事に。


そしてギルドで優遇されていた僕も、その影響でかなりイメージダウンを強いられた。


「一寸先は闇。よくいった物だよ」


正直、ここまで綺麗に転落する事など、頭に微塵もなかった。

いったい誰を、そして何を恨めばいいのやら。


「はぁ……」


スマホのメールに目を通す。

テレビなどで取り扱われるようになった頃から、母からは少し連絡が入るようになっていた。

頑張ればきっと父さんも認めてくれる的な、褒めてくれる物だったんだが……最新のメールには『一族の恥だから、家には帰ってこない様に。家族の事を口に出すのも許しません』と書かれていた。


僕についた悪いイメージのせいで、家に迷惑がかかる事を嫌ったんだろう。


「なんで……くそ……」


頑張っても報われない我が身の運の無さに腹が立ち、毒づかずにはいられない。


「今回は運が悪かった。そう、運が悪かっただけだ。こんな事はそう何度も起きたりはしない。頑張ればきっといつか報われるはずだ」


自分自身を慰める様に、そう言い続ける。

そう、今がどん底なだけだ。

努力して浮かび上がれば、今度こそ上手く行くはず。


「僕はまだまだ若い。やり直しは全然効く。だから頑張るんだ。このキャッスルギルドで」


ギルドを辞めるという選択肢はなかった。


ここに残るのは、僕にとってはデメリットの方が大きい。

なにせ、キャッスルギルドの神木聖ってブランドは、今は最悪な訳だからね。

距離をあけた方がほとぼりが冷めるのは早いだろう。


だけど辞めない。


キャッスルギルドは、本当にきつかった時に僕を迎え入れてくれた場所だ。

そして結果はどうあれ、僕を信じて次代の看板を任せてくれようとしていた。

そんな大恩あるギルドを捨てるなん恩知らずな真似、出来る筈がない。


たとえこの先に待っているのが茨の道だろうと、僕はこのキャッスルギルドと共に上に昇って行くんだ。


「そういえば……」


ふと、友人の事を思い出す。

高校の同級生で、僕と同じ夢を持っていた友達の事を。


「彼、今は何をやってるんだろう?覚醒は出来たのかな?」


思い出すと、無性に彼の声が聞きたくなる。


電話でも……いや、辞めておこう。

彼が辛い時、僕は自分の事にかまけて傍にいてやれなかった。

それどころか、暫くその存在すら思い出す事なく疎遠になってしまっている様な状態だ。


なのに、自分の気分転換のため声を聴こうだなどとむしが良すぎる。


「ん?電話?」


その時、スマートホンが鳴った。

手に取って画面を見てみると、そこに示されていた相手は――

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自作宣伝
最強執事の恩返し~転生先の異世界で魔王を倒し。さらに魔界で大魔王を倒して100年ぶりに異世界に戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。お世話になった家なので復興させたいと思います~
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― 新着の感想 ―
聖っちには落ち度ないと思うがなぁ ネタとして叩ける相手が必要なのか 一族を見返すのは無理そうだな どれだけシーカーとして偉業達成し世界に貢献しても、彼らは「キミ、病気治せないよね?」で一蹴してきそう…
家族がクズまみれやな……
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