第105話 初体験
『皆さん、攻撃を止めてください。バフを行いますから。聖さんはそのまま少し耐えていてください』
敵の攻撃を必死にいなしていると、恵さんからパーティー専用の通話が入った。
今の状態で攻撃を止めるのは自殺行為である。
だが、それでも手を止める様に皆に指示したという事は、何とかなる算段が付いたという事だ。
あの二人組……
急にバフが入り、恵さんへと視線を向けた時に見えた黒尽くめの二人の人物。
ボス戦開始時にはこの場にいなかった人達だ。
どうやってこのボスエリアに入って来たのか分からないけど、きっとあの二人が僕達の救いの神になってくれたのだろう。
希望が見えた……
「初めまして、神木聖さん。私は怪盗Gと申します」
程なくして、声を掛けられる。
それも頭上から。
視線を上に向けると、カラスの様な仮面を被った黒尽くめの女性が浮いているのが見えた。
「——っ!?」
流石の僕も、これには驚かざるをえない。
スキルだろうか?
「私が全てのターゲットを受け持ちますんで、貴方は一旦スキルを切ってくださいな」
その女性――怪盗Gが、ターゲットを受け持つと言ってくる。
Sランクダンジョンのボスや取り巻きの攻撃は強烈だ。
ナイト系列のクラス以外では、とてもその攻撃に耐えられない。
だが、頭上に浮かぶ女性がナイトのクラス持ちとは到底思えなかった。
装備も軽装に見えるし、大丈夫なのか?
いや、任せろと言っているのだ。
ここは素直に指示に従おう。
「分かりました。スキルを切ります」
僕は言われた通りスキルを切った。
つぎの瞬間――
「——っ!?」
―—視界がいきなり変わり、そして足にかかっていた重量が消える。
僕は浮いていた。
それも、黒尽くめの女性に鎧ごと胸を掴まれる形で。
引き寄せ系のスキル……いやちょっと待て、胸を掴まれてる?
いや、いやいやいや!
なんで僕に胸があるんだ!?
そしてどうして僕の鎧はこんなに膨らんでいるんだ!?
意味が分からない。
全く意味が……
「それじゃ、向こうで少し態勢を整えててくださいね」
怪盗Gは僕を上に放り投げ、デスウォーリア達の中心。
僕が先程までいた場所へと着地する。
そしてその体に光が降り注ぎ、光の柱——スポットライトにその身が包まれた。
スキルだろうか?
「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
デスウォーリア達が、着地した怪盗へと殺到する。
そこで俺の感覚がまた切り替わった。
「——っ!?」
上空に放り投げられた体は地面に立っており、目の前にはカラスの仮面をつけた女性がおり。
そして僕の胸を鷲掴みにしていた。
怪盗Gは敵に囲まれている状態だった。
だが周囲に魔物の姿はない。
ならこの女性は、もう一人の黒尽くめの……
僕を引き寄せたのは、怪盗Gが使った物と同じスキルなのだろう。
「私は怪盗G。君達を援護する事になった」
カラス面をした黒尽くめの女性がそう名乗った。
それは先程の女性と全く同じ名前である。
同性同名なのだろうか?
「俺は神木聖です。ご協力感謝します」
あれ?
なんか俺の声、滅茶苦茶高い気が……なんだろうこれ?
まあ今はそんな事より――
「ところで……鎌田さん達の姿が見当たらないみたいですが」
周囲には、カラス面の女性を除いた女性が6人いた。
大城姉妹。
それと女性の山根さんの姿はあったが、その中に、僕が一緒にパーティーを組んでいた男性3人の姿が見当たらない。
僕はそれが気になって聞く。
因みに、残りの3人は知らない女性だ。
きっと彼女達は、怪盗Gと名乗った女性の仲間だろう。
「ああいや、聖。俺達なら、まあ何と言うか……」
「ちょっとおかしな感じになってしまってるけど、俺達だ」
「まあ、ちょーっと一目じゃわからないだろうけど」
初対面の女性3人が、訳の分からない事を口にする。
あれ?
でもそういえばこの人たちの顔、なんか見た事のある様な……
それに彼女達の身に着けてる装備って……
「——なっ!?まさか!?」
姿の見えない、パーティーメンバーと同じ装備の3人。
そして彼女達の謎の発言。
そこに自分の膨らんだ胸元に加え、明らかにおかしい女性の様な僕の高い声。
これらの符号が合わさり、僕の中で一つの答えが浮かび上がる。
―—女性化。
普通に考えればありえない事だ。
けど、そうとしか考えられない。
「まさか……ひょっとして……僕も……」
僕のその言葉に、この場の全員が困った様な何とも言えない表情になる。
Sランクダンジョンボス攻略に来て、仲間に裏切られ。
そして女になる。
僕は一体、どこで道を誤ってしまったのだろうか?
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