第103話 恐怖
最悪……
最悪最悪……
さいあくさいあくさいあく……
「なんで……こんなはなずじゃ……」
最悪の状態に、私は頭がおかしくなりそうになる。
そう、こんなはずじゃなかった。
「私が……私達がキャッスルギルドを……」
神木聖と、妹の光。
そして今一緒にいるパーティーのメンバーで、キャッスルギルドの時代を築くはずだった。
そう、日本最高のギルドへと押し上げるはずだったのだ。
だがその夢は、私達に嫉妬した古株達によって崩されてしまう
Sランクボスを使った卑劣な罠。
魔物を使った殺人によって。
「なんとかしないと……なんとか……」
聖のクラスである聖騎士は、レアクラスの中でもトップに入るレベルの優秀なクラスだ。
事アンデッド戦に関しては、ヒーロークラス以上の強さを誇っていると言って良い。
それに彼のユニークスキル【根性】はピンチでその力を発揮する強力なスキルとなっている。
更に、私の持つユニークスキル【聖なる祝福】とも相性が良いため、今の彼は正に不沈艦と言って良い。
アンデッドに対して無敵の強さを誇る聖騎士。
そして強スキルである【根性】と、耐久力と聖のスキル効果を底上げする【聖なる祝福】。
この条件下で、私達がアンデッドに負ける様な事は絶対ないと言い切れた。
だが、それはあくまでも通常の魔物の場合だ。
ボス、それもSランクのボスになれば話は変わって来る。
聖は現在、ルーンリッチの呼び出した取り巻きのデスウォーリア相手に耐えるので精いっぱいとなってしまっていた。
「火力が、火力が足りない……」
ルーンリッチは1分に1体のペースで取り巻きを召喚して来る。
それらを処理しながら、本体に攻撃を仕掛けると言うのがこのボス戦でのセオリーだ。
聖騎士のホーリーオーラは、アンデッドのターゲットを固定し。
攻撃をされた際、相手に対して一定確率で反撃したり、ターゲットを変えるカウンター行動すらも封じる。
そのため、ヒーラーである私以外は攻撃に専念出来ていた。
―—だが、火力が足りない。
妹の光のバフは強力無比で、それ以外のメンバーも、ギルドから惜しみない支援を受けている精鋭揃い。
けど、それでも……ボスに攻撃を仕掛けるどころか、私達は雑魚処理すら間に合っていない始末。
当然よね。
本来4パーティーで挑むはずだったボス相手に、たった1パーティーで戦ってるんだもの。
「せめて私がレア……いえ、ヒーロークラスだったなら……」
私はノーマルクラスのヒーラーだ。
なのでアンデッド相手だろうと火力は大したことが無く、聖の状況を確認しながら回復魔法を飛ばす事が私の主な仕事となっている。
パーティーにまったく貢献していないとは言わない。
けど、この状況を変えるには、私は余りにも無力だ。
もし私が強力なスキルを持つヒーロークラスだったならと、そう思わず入られなかった。
もちろん、ヒーロークラスだったとしても、必ずしも状況をひっくり返せるとは限らないけど。
「もう、どうしようもないの?」
取り巻きの数がさらに増える。
その数10匹。
優秀な聖騎士だからこそ耐えられているが、それだっていつまでもつか分からない。
このまま行けば、そう遠くない先に待つのは崩壊だけである。
それが分かっていても、私は聖に回復魔法を飛ばす。
愚かな悪足掻きだというのは分かっている。
でも、諦めたくない。
他の皆だってそう。
無駄だと分かっていても、死に物狂いで戦っている。
だから私も、最後の最後まで諦めず戦か――
「お嬢さん、宜しいですか?」
「え?」
その時、急に背後から声を掛けられる。
驚いて振り返ると、そこには――
黒尽くめに、怪しい鳥の様なマスクの二人組の女性がいた。
「え?え?」
この場には私達しかいなかったはず。
一体彼女達はどこから現れたのか?
本来絶対いるはずのない怪しげな二人組の唐突な登場に、私は混乱する。
「驚かせてしまったようですね。私達は、転移の能力でこの場にやって来たのです。ボスエリアでおかしな事が起こっている様だったので、その確認のため」
「転移……転移スキルですって!?」
転移スキルは、極一部のヒーロークラスが持つと聞いた事があるわ。
じゃあこの怪ししげな二人は、ヒーロークラス……
「た、助けてください!このままでは私達は全滅してしまいます!だからどうか私達を助けて下さい!!」
私はなりふり構わず、ヒーロークラスの二人に助力を嘆願する。
怪しげな二人組だけど、今はそんな事を気にしている場合ではない。
生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
彼女達の転移能力で、ここからなんとしても脱出しなければ。
「分かりました。いいでしょう……ただし、条件があります」
「どんな条件でも言ってください!必ず守ると誓います!!」
「ではまず、皆さんのおっぱいを揉ませて下さい」
「へ……」
なにを言っているのか、私には理解できなかった。
「ですから、ここにいる皆さんのおっぱいを揉ませてください」
ああ、駄目だわ。
きっとこの二人は、恐怖で頭のおかしくなった私の見ている幻なんだわ。
恐怖で幻を見る様じゃ、もうおしまいね。
なにもかも。
あ、そうか……
ふふ、きっとこの二人は死神なんだわ。
私は自らの死を覚悟した。
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