第101話 LS祭り
1パーティでのSランクボス戦が気になった俺は、エリア外にいた3パーティーの背後に転移した訳だが……
「……」
その場にいた人間は全員、結界越しにボスエリアの方を見ていたので、音もなく現れた俺と勇気には気づいていない。
これ幸いと彼らの声に耳を澄ますと……
え?
盗み聞きするのか?
そりゃするよ。
だって怪盗だもの。
「ははは、神木の奴頑張るじゃねぇか」
「さすがはアンデッド特化の聖騎士だけありますねぇ
聖騎士の神木……って、ひょっとしてまさか聖の事か!?
結界の前は大人数が陣取っている上に、結界は若干視界の通りが悪いので、俺の位置からでは中の様子は分からない。
だが聖騎士クラスの神木なんて名前はそうそう転がっている訳もないので、戦ってるのは聖のパーティ―と思って間違いないだろう。
あいつ、1パーティーでSランクボスを討伐できるぐらい強くなってたんだな。
流石聖。
そんな事を考えたのだが、続く言葉でその考えが間違っていると気づかされる。
「まあ、それも時間の問題でしょうが」
「おいしっかり撮っとけよ。あいつらが全滅するさまをよ。後でギルマス達に送ってやるんだからよ」
「バッチリっすよ」
全滅するさまを撮る!?
不穏な言葉に、俺は眉根を顰める。
どういう事だ?
まるで聖達が負けるかの様な口ぶりだぞ。
「俺達を軽んじた罰はしっかり受けて貰わないとな」
「ギルドを私物化した末路。自業自得ですね」
「んで、これを見る頃には俺らは海外って訳ですもんねぇ」
「呆然とする顔が見れねぇのが残念だぜ」
「復讐も出来ず、きっと憤怒に燃える事でしょうね」
復讐……
おいおい、これってまさか……
『察するに……どうやら、ご友人は罠に嵌められたみたいですね』
そうとしか思えない様な会話内容である。
『どうされます?おそらくこのままだと、神木聖さん達は全滅する事になりますよ?』
どうする?
そんなの考えるまでもない。
決まっている。
『あ、返事はテレパシーでお願いします』
『聖を助ける』
友達を見捨てるなんて選択肢はない。
聖は俺が助ける。
『了解しました。因みに、私の見立てでは……勝率は3割ぐらいですね』
『3割あれば上等だ』
確率がゼロだと言うなら兎も角、3割あるならその3割を掴み取るまでだ。
『おお、男らしいお言葉。あ、3割ってのはあくまでもソロの話です。中のパーティーと連合を組んでしっかり連携さえできれば、5割ぐらいまで勝率は上がりまよ』
そういや、ユニオンスキルがあったな。
中に入ったら、まずは聖に連合申請をした方がよさそうだ。
『更に言うなら……』
『まだあるのかよ』
さっさと聖を助けに行ってやりたいのだが。
『目の前にラッキースケベ要因が大量に転がってるんで……ラッキースケベ祭りを開催すれば、ぐっと成功率は上がりますね』
そういや、この場には21人もギャラリーがいたな。
ボスエリア近辺まで引っ張って来ても遠くに行ってしまう魔物と違い、聖達に死んでもらいたいと思っている彼らがこの場から離れる可能性は低い。
『なら、こいつらにはボス討伐に大いに貢献して貰うとしようか』
『流れ的には、まずマスターが使って下さい。そしたらその相手に私が使い、そのままポイしますんで。その名も、やり逃げダイナミック作戦です』
酷い作戦名である。
まあこの際、作戦名はまあいいか。
『あ、それと……テレパシーは維持しっぱなしでお願いしますね。色々捗るんで』
『わかった』
なにが捗るのかは知らないが、勇気が言うのなら必要なのだろう。
『じゃあやるぞ!』
『ひゃっはー!祭の始まりだ!』
手近な相手にラッキースケベをかける。
「——っ!?」
俺の目の前に飛んで来たシーカーが、ラッキースケベで女体化し、目を見開き固まる。
突然転移して、しかも胸までも揉まれるのだ。
いくら腕利きのSランクシーカーであっても、この条件なら反応できずに固まるのも当然である。
これに即座に対応出来る奴がいるのなら、ぜひ見てみたいもんだ。
揉んでいた左手から、唐突に胸の感触が消える。
俺に続いて勇気がラッキースケベで引っ張ったからだ。
ちらりと勇気の方に視線を向けると、胸を揉んでいる左手の手首を回し、彼はシーカーを綺麗に投げ飛ばしてみせた。
どうやってその動きで投げ飛ばせるのか、まったく原理が分からん。
まあ気にしても仕方ないか。
「なんだ!?」
ボスエリアを見ていた奴らだが、何人かが異変に気づいて振り向く。
シーカーを投げ飛ばした際に発生した気配に反応したんだろう。
勇気自体の動きは最少だったけど、人間が飛べば流石に鋭い奴は気づくわな。
まあだがやる事は変わらない。
ラッキースケベをするだけだ。
「——っ!?」
俺。
次いで勇気へと送られ、投げ飛ばして二人目完了。
「テメーら何者だ!」
無視してラッキースケベを続ける。
聖を罠に嵌めて殺そうとしている様な奴に、いちいち自分が何者なのか名乗ってやる謂れはないからな。
勝手に混乱してろ。
「なんだ!?武田が女になっただと!?」
目の前で仲間が女体化する様を見て、周囲の奴らがざわめく。
だが俺はそれを気にせず、3人目、4人目とラッキースケベを続ける。
「舐めるな!」
弓を持っていたシーカーが矢を放ってくる。
仲間が何人も引っ張られて性別を変えられ、投げ捨てられる異常な状況ではあるが、流石Sランクだけあって対応が早い。
「ぐぁっ!?」
飛んで来た矢を、ラッキースケベで引っ張った5人目で防ぐ。
遠距離攻撃にはこうやってスケベバリアがあるので、対処が楽だ。
「俺達に喧嘩を売るなんざいい度胸だ!始末するぞ!!」
聖を嵌めた奴らが本格的に動き出す。
「なんだこの体は!?」
「くそっ!?何だってんだ!!」
投げ飛ばした奴らもそこに加わる。
「おら!」
更に、引き寄せられる事を把握した奴らもそれに合わせて攻撃してくる。
初見殺し的な技だが、まあ何度も見られればそりゃ対応されるよな。
流石に何人も同時には相手できない。
ワイヤーで高速移動しつつ、引き狩りチックにラッキースケベをかけるスタイルへと変更する。
……くっ、きついな。
だがそれも直ぐに追い詰められだす。
性根が腐っているとはいえ、相手はSランクシーカーのパーティだ。
スポットライトを使い、バフで強化が進んでいるとはいえ、流石にそれを3パーティーも同時に手玉に取るほどの力はない。
ラッキーブーストを使えば話は変わって来るが、あれは温存しないと駄目だからな。
どう考えてもボス戦で必要だ。
『ついにあの技を出す時が来ましたよ、マスター』
『あの技ってなんだ?』
『もちろんスカンクバスターです!奴らの虚を突くにはもってこいの技ですから!さあスカンクバスターで奴らの度肝を抜いてやってください!!そしたら私がスキルで全員の動きを止めてやるんで』
オナラで怯ませて、その隙に勇気の例のスキルで動きを止める作戦か。
個人的にあれはあんまり使いたくないんだが……いや、そんな事考えてる場合じゃないな。
今も聖達はSランクボス相手に奮闘しているのだ。
早く助けに駆け付けてやらんと。
「受けろ!スカンクバスター!」
敵に囲まれた所で、盛大にスカンクバスターをぶちかましてやる。
「ぐわっ!?」
「なんだ!?くせぇ!?」
「目に染みる!!」
オナラの直撃を受けた奴らが藻掻き、その中を素早く勇気が駆け抜ける。
シーカーの体に触れながら。
「縛!」
そして発動する、勇気の束縛スキル。
「くっ!?なんだ!?体が動かねぇ!?」
「どうなってやがる!!」
「くそが!」
Sランクシーカー21人の動きを一斉に止めるこのスキル。
色々と制限があるとはいえ、相変わらずデタラメな効果である。
「じゃあ今のうちに!」
「ああ!」
拘束時間は1分。
使用中は勇気も動けないデメリットがあるが、とりあえず俺の分だけ終わらせ――
「あれ?」
ラッキースケベで引き寄せた相手が唐突に消える。
まさかと思い勇気の方を見ると、彼のもとにシーカーが移っていた。
勇気はそのまま手首の動きでだけでそいつを投げ飛ばしてみせる。
「動けるのか!?」
「歩いたりなんかは出来ませんが、こうやって片手だけならいけます」
どうやら、完全に動けなくなる訳ではない様だ。
「よし!全員終了!」
「それじゃあ、助けに行きましょうか」
「く……助けるだと……テメーら、まさか神木達を助ける気か?」
「そうだ。お前たちの思い通りにはさせない」
「馬鹿が、結界が目に入らねーのか。あいつらはどうあって助からねーんだよ」
普通ならそうだろうな。
だが俺達なら話は変わって来る。
何故なら俺達は――
「ふ、私達怪盗に不可能はない」
―—神出鬼没の怪盗だからだ。
「どうなってやがる!」
「結界をすり抜けただと!?」
俺はミスティックを使い、結界を通り抜けて勇気と共に聖の元へと向かう。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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