第100話 罠(S)
僕達はSランクダンジョンを進む。
4パーティーで。
道中何度も魔物と出くわすが――
「よし!処理完了!進むぞ!!」
それら全てを素早く処理し、先へと歩みを進めていく。
単に狩りをするだけなら、間違いなく過剰な戦力と言えるだろう。
だが大所帯で行動するのには意味があった。
―—何故なら、僕達の目的はボス討伐だからだ。
Sランクダンジョンのボスは強い。
Aランクまでとは比べ物にならない程に。
そのため、
「よーしここで休息だ」
目的地まで残り2割の当たりで、先輩シーカーである鬼頭さんが指示を出した。
僕達はそれに従い、荷物を降ろして休憩の準備を始める。
Sランクダンジョンは広い。
最奥にいるボスのもとへと辿り着くのに、大人数で素早く魔物を処理しつつ、最短で向かっても丸2日かかる程だ。
いくらシーカーが常人とは比べ物にならない程タフだとは言え、魔物を狩りつつ2日間も強行軍を行うのは辛い。
だからこうやって休憩を取りつつ、ダンジョンを進んでいる訳である。
「2パーティーずつで休息するぞ。最初はA班が見張りだ」
ダンジョン内では魔物が湧くため、寄ってきた魔物の対処が必要となる。
全員で休憩を取ってしまうと魔物の奇襲を受けかねないので、半々に分けて休憩するのがセオリーだ。
「ボスまでもうちょいだね。ワクワクするねぇ」
僕のパーティーのメンバーの一人、王城光が楽しそうに言う。
王城光。
キャッスルギルドマスターとサブマスターの身内で、さわやかな笑顔が特徴的な17歳の短髪少女だ。
まあ、最大の特徴は胸なんだけど……そこには触れないでおこう。
そんな彼女のクラスは特殊なもので、レアクラスの中でも僕の聖騎士と並んで特に数が少ないと言われている、バトルダンサーだ。
バトルダンサー自身の強さはそれ程でもないが、その真価は強化能力にある。
発動には敵を殴って低確率を引き当てる必要こそある物の、その効果は強力で、更にパーティーだけではなく、連合を組んでいるメンバーにまでバフがかかるという点から、大人数で挑むボス討伐においては、一人加わるだけで難易度が1段階下がるとまで言われる程だ。
まあバフが確率だから、全然発動できずに空気になる事もあるみたいだけど……光ちゃんのユニークスキルは、そんな欠点を補う物だからな。
今回のボス討伐で活躍してくれること間違いなしである。
「へへっ、楽しみだなー。Sランクボス」
初のSランクボス討伐。
しかも最年少にも拘らず、彼女に緊張の色は見えない。
普通は緊張してしかるべきだってのに、メンタルの強い子だ。
「なんだか体がうずいてじっとしてられないや」
寝袋にくるまっている王城光が、寝袋ごとごろごろ転がり出した。
一部が突出しているためか、その動きはちょっと不規則だ。
「光。しっかり休憩しなさい。ボスエリア前で休憩を取るとはいえ、道中だって何が起きるかわからないんだから」
そんな王城光を、姉である王城恵が嗜めた。
道中は4パーティーもいれば、危なげな事はおきない。
とは言え、油断は禁物である。
ほんの僅かなミスで人が命を落としかねないSランクダンジョンにおいては、慎重に慎重を重ねるぐらいがちょうどいい。
「はーい」
「いい。緊張感をしっかり持ちなさい。軽率な行動は――」
「ははは、相変わらず恵嬢ちゃんはお堅いな」
一緒に休息を取っている鬼頭さんが、僕の横にやって来て座る。
鬼頭さんは大城ギルドの先輩で、今回のボス討伐でリーダーを務めている人物だ。
「まあ気楽にいこうや。俺らベテランがついてるんだ。心配ねーって」
「もちろん、皆さんの事は信頼しています。経験豊富なベテラン揃いですから。ですが、私達にとっては初めての経験です。失敗して迷惑を掛ける訳にもいきませんので、気を引き締めて行かないと」
僕のパーティーのメンバーは、Sランクボス初体験のルーキーで構成されている。
それに対して他の3パーティーは、これまで何度もSランクボスを討伐して来たベテラン揃いだ。
構成からも分かる通り、今回の討伐は僕達の経験を積む場と言って良い。
「ははは、ちょっと失敗したぐらいどうって事ねーさ。しっかりサポートしてやるからよ。安心しな。聖も緊張すんなよ。相手はお得意のアンデッドなんだから、ボコボコにしてやるぜって意気込みで頑張んな」
鬼頭さんが僕の肩を叩く。
―—今回討伐するボスは、レベル91のアンデッドだ。
Sランクレベルのボスは、1レベルで強さが相当変わって来ると言われている。
にも拘らず90ではなく91レベルのボスがデビュー戦に選ばれたのは、僕のクラスである聖騎士がアンデッド相手に特段に強いためだ。
僕がより活躍できるよう、アンデッドが選ばれた。
そう考えると、僕の責任は重大だ。
鬼頭さんは気軽に挑めって言ってくれるけど、とてもそんな心情にはなれそうにない。
「とにかく、全力を尽くしたいと思います」
なので無難な返事を返しておいた。
「やれやれ。誰も人のアドバイスを聞きやしねぇな」
鬼頭さんが苦笑いする。
その後、休憩を終え、僕達はボスエリア手前に到達する。
ボスエリアの手前には他の魔物は寄ってこないので、そこで再度休息をとって体調を万全にし、僕達はボス討伐へと挑む。
「よし!今日はお前らが主役だ!いい絵を取るためにも先に入れ」
宣材用の動画を取る為だろう。
鬼頭さんが僕の肩を叩く。
キャッスルギルドは、僕達を次代のエースとして盛り立てる戦略を取っていた。
言ってしまえば客寄せパンダの様な物だが、僕にとって目立つのは好ましい事だ。
出来損ないとぞんざいに扱った家族をシーカーという立場で見返すには、圧倒的な知名度と、そこからくる影響力が必要だから。
「分かりました。行こう、皆」
「ええ、行きましょう」
「よーし!ボッコボコにしてやるぞ」
僕を先頭に、パーティーメンバーがエリアへと入る。
ボスはエリアに入っただけでは動き出さない。
ある程度近付いたら動き出す感じなので、あまり近づきすぎないよう余裕を持った一で停止する。
まあこれだけ入り込めば、宣材用の映像としてはきっと十分だろう。
「ん?」
その時、僕の顔の横辺りを何かが通り過ぎていった。
一瞬それが何かわからなかったが――
「オオオオオオオオオオオオォォォォ」
エリアの中央。
そこにある魔法陣の更に中央に立つアンデッド。
ぼろ布を身に纏い、宝玉の嵌ったドクロの杖と額を持つ魔物。
死霊王ルーンリッチが雄叫びを上げた事で理解する。
そう、それが何者かによって行われたリッチへの攻撃であった事に。
「なっ!?」
「そんな!?」
「不味いぞ!他の皆は!?」
僕は慌てて振り返った。
ルーンリッチが動き出したという事は、ボスエリアに結界が発生したという事である。
誰がいきなり攻撃する様な馬鹿な真似をしたのか気にはなるが、今は他のパーティーの状況確認の方が重要だ。
何故なら、僕達の姿を映すため他パーティは離れた後方にいたから。
中に入れた人数次第では、かなり不味い事になりかねない。
「馬鹿な!?」
僕は背後を振り返って驚愕する。
何故ならそこには、後続パーティーの姿が一切なかったからだ。
予想を遥かに超えた最悪の状態に、全身から血の気が引く。
「嘘でしょ!」
「なんで!?」
―—死。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
聖騎士はアンデッドに強い。
僕のユニークスキルは聖騎士との相性は抜群で、更に、恵さんのユニークスキルはそれを加速させてくれる。
それに光ちゃんは優秀だし、他のメンバーも次代を担う新進気鋭と言って良い。
でも。
それでも。
僕達のパーティ―だけでSランクボスの討伐は不可能だ。
4パーティーでかかる様な相手なんだから。
勝てる訳がない。
「……」
救いを求める様に、僕は視線を結界の外へと向ける。
結界は薄い光の膜の様な物で、薄っすらとだが外の様子を見る事が出来た。
その先では――
「——っ!?」
―—薄ら笑いを浮かべた鬼頭さん達の姿が。
「あ、あぁ……」
そこでやっと僕は気づく。
彼らによって、僕達が罠に嵌められたんだという事に。
あの攻撃は……
「聖さん!来ます!!」
光ちゃんが叫んだ。
その声に振り替えると、リッチの呼び出した召喚アンデッド達の姿が飛び込んできた。
そいつらは凄いスピードで突っ込んでくる。
その様に、僕は本能的に剣を抜き、盾を構えた。
「くそ……くそお!こんな所で……こんな所で死んでたまるかよ!!」
そうだ。
こんな所で死んでたまるか。
生き延びられる確率が限りなく0に近かろうと、僕は絶対に生き延びて見せる。
そして最高のシーカーになって、俺の事を見下していた家族を見返してやるんだ。
「だから俺は死なない!」
始まった。
俺達にとって、最悪のSランクボス討伐が。
その先に在るものは……
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