◆4 残念すぎる逸材
侯爵から、今まで預かってもらっていたものを返してもらい、晴れて俺は公爵家当主としての責務を全うするための第一歩を踏み出した。
俺は、地に落ちた評判を戻す事をひとまずの目標にしようと思っている。葬式で高笑いをしたことから始まり、義務以外ではほぼ屋敷から出ず引きこもり、外に出ても不器用すぎて勘違いまで周りにさせてしまっていた。
そこに数日前不能男という不名誉が追加されたんだが……いや、あまりに酷すぎる。
俺はダンテの理解者だ。なら、ダンテの為にも平和な日常を手に入れなくてはいけない。
それに、俺はダンテの代わりで公爵家当主となったが、初めての事ばかり。だから余計なことは取っ払ってしまわないと面倒ごとに直面しかねない。ダンテの為でもあり、俺の為でもある。
ダンテは、領地管理などは数年間父自ら厳しく叩きこまれてきたが、亡くなってからは一切目を向けなかった。だから、俺がこの記憶を頼りにおっかなびっくりやるのはな、という不安がある。そもそも異世界自体が初めてなんだから。中身はただの会社勤めの社会人なんだ。
帳簿や書類に目を通しても理解出来るだろうか。そんな不安を持っていたのだが……
「へぇ、こんなもんか」
「ルアニスト侯爵は、8年間ブルフォード公爵領を管理なさっていましたからね」
この国では、毎年国に領地などの現状報告を記載した書類を提出しなくてはならないから、ズルは出来ないとちゃんとしていたようだ。
横領に関する事は、行うたびにもみ消したようだから書いていない。とはいえ、その件に関しては帳簿などを取り戻すための脅迫として使う以外は必要ないものだから別に気にする事じゃない。
「よろしく頼むよ、カーチェス」
「はい、かしこまりました」
これなら俺でも出来そうな気がする。それに、執事として今まで先代を支えてきた経験者も横にいるからな。教えてもらいつつもやってみよう。まぁ、しばらくはカーチェスにおんぶに抱っこになるだろうけど。
「さすがですね、ダンテ様」
「先生の教え方がいいんだろう」
「そう言っていただき光栄です」
ダンテは幼少時代から厳しく教育されてきた。それに、25歳になるまでに得た膨大な知識もある。さすがに優秀すぎだろ。何となく勿体無いやつだなと呆れてそうではあるが。
まぁ、これで当分は安心だな。
「……あぁ、明日の午後に理容師とブティックを呼んでおいてくれ」
「……え? 理容師と、ブティック、ですか……?」
「あぁ」
そんな俺の発言に、カーチェスはだいぶ驚愕している。まぁそうだろうな。散髪なんて、他人に触れられるのが嫌いなダンテは絶対に呼ばない。この長髪がその証拠だ。
今はカーチェスに用意してもらった髪紐で後ろに縛っているけれど、このままじゃ邪魔過ぎて仕事にならない。
そして、今まで服は全てカーチェスに一任していた。そもそも、ダンテは興味がなく放ったらかしにしていたせいで仕方なくカーチェスが代わりに用意していた、が正解だ。
黒を好む先代達に合わせて、ダンテの服も黒一色だ。今着ている服も黒。もう黒はうんざりだ。
早くこのうっとおしい髪と真っ黒な服をどうにかしたい。早急に。どよーんという効果音が聞こえてきそうだ。
動き出す前に、まずは身なりを整えないとな。生活しづらいまま放っておくのは絶対に無理だ。