◆28 もう少し隠すことをした方がいい
今日もまた、ご令嬢がブルフォード邸に来訪してきた。来ない事を願ってはいたが、また来るとは。もちろん、相手は俺より年下の婚約者のいないご令嬢。今度は何を言い出すかと思えば……
「結婚話などで今大変でしょう、1年間でいいので契約結婚なんて如何でしょう?」
いきなり、契約結婚を持ち出された。この前も契約結婚と言われたが……呆れてものも言えないな。あの手この手で俺を婚約者に、なんて、貴族の女性達が考える事は理解出来ない。
「今、公爵様との結婚を狙っている女性達が数多くいます。結婚話も今たくさん来ているのではないですか? 公爵様はお忙しい身ですから、これでは支障をきたしている事でしょう。ですから、私が期限付きの契約妻になりましょう。公爵様が妻を娶れば周りも静かになるはずです。風当たりは多少なりともあるでしょうが、それは私に任せてください。それくらい朝飯前ですから」
「はぁ……契約云々は置いておいて、その後離婚してから貴方はどうするつもりですか? 社交界じゃ良い目で見られないでしょう」
「その後の事はお気になさらないでください、考えがありますので」
「そう言われてしまっては困るのですが」
俺はその部分を聞かなければ何も答えられないんだが。
「……私は、早く実家を出たいんです。私の実家は、はっきり言って地獄です。父の命令は絶対、そんなルールが出来てしまっているのです。私は、そんな父から解放されたいと思っています」
「だから私を選んだ、という事ですね」
「はい」
前々から思っていたが、俺を利用しようとする女性達が多い、多すぎる。いや、それは口実だと分かっているが。ご令嬢の顔を見れば、心の声など丸分かりだ。少しは顔に出さない努力でもした方がいいぞ。
「契約後はこの社交界から消えますのでお気になさらないでください」
それがどういう意味なのか聞いているのだが。家出してどこか遠くでひっそりとスローライフを送る気か?
「残念ながら、私は結婚する気がありません。契約妻に、という提案ですが、必要としていませんので了承出来ません」
「ですが……」
「実家を出たい、との事でしたが、私の知り合いに婚約者を探している人物がいます。この国に影響力を持っている人物の嫡男です。私が縁談の場を作って差し上げますから、それまでお待ちください」
「でっでもっ」
「でも、なんでしょう。貴方の父、伯爵も絶対にNOとは言わないと思いますよ」
「わ、たしは……公爵様と……」
「私に契約妻は必要ありません。先程も申し上げたでしょう。ご令嬢は先ほど、私は結婚話を持ってくるご令嬢達に困っているという前提で話していましたが、一体誰がそう言ったのですか」
「えっ」
「全部憶測でしょう。私は何も言っていないのですから。勝手な思い込みで提案されるのは、正直迷惑です。それとも……あなたは私がご令嬢達が持ってくる結婚話で頭を抱え仕事もままならなくなってしまう程度の力量しか持ち合わせていない男だと、そうお思いですか?」
「あっ、いえ、そういう事ではっ……」
「お帰りください」
顔を青ざめたご令嬢は、カーチェスによって半ば強引に帰らせた。
はぁ、これで仕事がまた増えてしまった。後で手紙を書いて公爵達に連絡をしないといけないな。
ご令嬢に向かって偉そうな口ではあったが、ダンテは優秀だ。ここまで領地管理が出来ているのは、ダンテの力量あっての事だ。こんな皇族の血を受け継ぐ公爵家の当主を務める事が出来るのは、そういう事だ。俺の力じゃない。
まぁ、ご令嬢達には呆れているがな。別に危機感を覚えているわけじゃない。そうでなければここまで計画を進められないでいただろうな。
「ダンテ様、お客様がいらっしゃっております。別邸でお待ちになっております」
「……分かった」
俺が来訪者に対応している最中に来ていたのか。
別邸、という事は、来訪者は……
「来たか、ダンテ」
「……」
そう、第二皇子殿下、シリル殿下だ。いつもならここで「ご機嫌麗しゅう」と挨拶をし、「堅苦しい挨拶はやめろ」と返されるのがいつもの会話なのだが……このタイミングで殿下と会うと、もういいやと気が抜けてしまう。
ソファーに腰を掛けていた殿下の隣に、座らず膝を置き、殿下の首に腕を回して押し倒した。いきなりの事で彼も驚いただろうが、がっしりした身体の彼がしっかりと受け止めてくれた。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「ふっ、人気者は苦労するな」
「……」
殿下の前でこんな深いため息なんて吐いたことはない。それなのにこんな態度を取ってしまうというのは……ご令嬢達の馬鹿げたお遊戯に付き合わされて機嫌が悪かったからか。だいぶ怖がらせてしまったしな、さっきのご令嬢には。
だが、殿下に抱き着き……安心したからなのか、目をつぶっていると寝そうになってしまう。
そう、今俺は安心している。殿下の体温を感じて、落ち着くこの匂いに包まれて、聞き心地の良い声にささやかれて。
今の俺は、気が休まっていることを自覚している。……不服にも。
計画の邪魔をされないよう、俺はルアニスト嬢の婚約者である殿下に手を出した。殿下にのめり込むなんて事はないだろうと、思っていた。……はずなのに。
まだ、離れたくない。包まれていたい。そう思ってしまっている自分がいる。
……あ~~~~~~、なにやってんだろ。




