◆22 シリルside
「ブルフォード公爵様は、首都を離れてブルフォード領に向かわれたそうです」
「……そうか」
シリル・ラマ・モルガスティ。この国の第二皇子という地位に立っている。
兄上である第一皇子は、次期皇帝の座を受け継ぐ事を約束された皇太子だ。俺は皇帝になることは出来ないため、今は微妙な立ち位置となってしまっている。
そのため周りからの圧力というものがあり、さらには兄上を失脚させて俺を皇太子に、というおかしな話まで出てくる始末。
だが、俺は皇帝になるなど微塵も思っていない。兄上が皇帝になると同時に、俺は大公となり、兄上を支えるつもりだ。そのためにも今の内から自分の地盤を固めなくてはならない。
兄上である皇太子にはもうすでに婚約者がいる。第一皇女である姉上は、もうそろそろで隣国に嫁ぐこととなっている。順当にいけば、次は俺だ。きっと周りは何か企んでいる事だろう。
だが、俺には後ろ盾というものがない。気にかけてくれていた姉上がそろそろいなくなってしまうのだから、早く地盤を固めなければならないというのに。
焦っている。それは自分でもよく分かっている。
焦ったところで、選択を見誤るだけだ。皇族は、いついかなる時でも冷静に事を見極めなければならない。
それは、よく分かっている。
分かっていた、はずだった……
俺の婚約者であるルアニスト嬢の、元婚約者。ダンテ・ブルフォードのおかしな行動。そして、それを皮切りに周りが大きく変化してきた。それも、俺達にとって良からぬ方向に。
そして、母上である皇后陛下からルアニスト嬢に送られてこなかった招待状。これは、母上がルアニスト嬢に対する意見を表している。このタイミングだったという事は、きっかけはブルフォード卿が事業を始めた事だろう。
俺は、選択を見誤ったというわけか。だが、今更気が付いても遅い。
だが、そんな危機感をずっと感じていたはずが、今は母上が催したパーティーの休憩室で起きたことばかりが浮かんできて、忘れられない。
「はぁ……ブルフォード卿は、一体何を考えているんだ……」
あの夜から、俺はおかしくなった。何をしても、脳裏にはブルフォード卿のあの顔が浮かんでくる。どういうつもりだと問いただしたいところだが、もうすでに首都から離れて領地に向かった後だった。これではどうしようもないではないか。
考えれば考えるほど、頭がおかしくなってくる。
あの日、高位貴族院会議の後に顔を合わせた時、心機一転と言って容姿を一変させた姿をこの目にした時から、気になって気になって仕方なかった。あの婚約破棄がきっかけで、あのような行動までしてきたのだ。
皮肉にしては度が過ぎた発言ばかり。そもそも、彼が俺に皮肉など言う事自体がおかしいのだ。
警戒していたにもかかわらず、あろうことかこんなところまで、あの一夜まで進展してしまった。
……俺は、どうしたらいいんだ。




