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◆2 スッキリした朝


「……腹減った」



 その一言と共に、目を開き豪華な天井を見つめた。


 記憶を辿りつつ、ベッドの横に設置してあるサイドチェストに手を伸ばし、呼び鈴を鳴らした。振りすぎたのか、ベルの音が頭に響く……


 ちょっと煩かったか。でも聞こえなきゃ意味ないもんな。


 ちゃんと聞こえたらしい。大きな足音が聞こえてきて、コンコンとこの部屋のドアがノックされる。



「失礼します、おはようございます、ダンテ様」


「……はよ」



 目を凝らしつつも、入ってきた人物に視線を送る。驚愕な顔で絶句しているのは、この家の執事であるカーチェスだ。確か……70だったか。元気なおじいちゃんだな。


 彼がこんな様子なのは、きっと俺が返事をしたからだろうなぁ。ダンテの記憶を辿ると、朝の挨拶をした場面は幼少期くらいしかないからな。



「ご体調のほどはいかがでしょうか?」


「体調? 至って元気だ。ぐっすり眠れたよ」


「そう、でございましたか……」



 うわ、驚いてる驚いてる。不眠症のダンテがぐっすり眠れたなんて、そりゃ驚くだろうな。しかも、ついでっかいあくびと、のび~っと身体を伸ばした様子に目ん玉が飛び出そうなくらいになっていた。



「あ、安心いたしました。二日も起きてこられなかったものですから」



 今度は俺が驚く番だった。二日も起きなかったとは、とんだ寝坊助だな。まぁ、ダンテは酷い不眠症だったから仕方ないか。


 ぐっすり眠れたからか、意外とスッキリしてる。二日間の睡眠はだいぶ熟睡出来たようだけど、それは中身が変わったからか? それなら安心だ。


 すごく位の高いお貴族様の屋敷、そして当主の寝室の寝具なんだから高級品だ。寝心地は最高に抜群。おかげでいい眠りを堪能出来たな。逆に、こんなにいい寝具を使っておいて何故不眠症だったのか聞きたいくらいだ。


 身体も軽く感じるし、身体がちゃんと休まったからかダンテの記憶も寝る前より鮮明だ。それも、何年間も読んできた本の内容まで。本数までは把握出来ないけど、何万、くらいの単位だろ。


 頭がパンクしそう、というわけじゃない。頭の中に本棚があってちゃんと収納されている感覚だな。頭もスッキリ整理整頓だ。



「朝食は如何いたしましょう」


「すぐ取る、用意してくれ」


「……え?」



 カーチェスは、そんな俺の返答にまたまた同じ反応を見せた。


 そういえばダンテは朝食を取らないんだったな。けど二日間も食事を抜いてしまっていて絶賛腹ペコなんだから、そんな事出来る訳がない。空腹過ぎて死にそうだ。


 また大きなあくびをしつつもベッドから出て脇に座ったが……またもや驚かれる。もうその反応、飽きたんだけど。今後もこんな感じだからよろしく。



「ルアニスト侯爵令嬢から手紙は来てないか」


「は、はい、こちらに……」



 カーチェスは、持ってきていたらしい手紙を慌てて渡してきた。金色の装飾がされている、高級感のあるA4サイズの封筒だ。


 封を切ってもらい、中身を取り出す。中には、紙が三枚。果たして俺に読めるかと不安ではあったけれど、記憶が鮮明になったからか日本語を読んでいるかのような感覚で読める。助かったな。


 これは、婚約破棄の為の書類か。確か、この場合男性であり立場が上のこちらが用意し、サインをさせ皇室に出すのが常識だ。だが2日も俺が寝コケて待たせてしまいきっとしびれを切らしてあちらが用意した、ってところだろ。


 婚約破棄をしたいならそちらが用意しろ。何とも失礼なやつではあるけれど、事前に何も相談すらせずいきなり面前で言ってきたのはあっちだ。しかも余計なことまでしやがって。だからこちらは別に何も悪くない。


 ご令嬢のサインを確認したところで、用意させたペンで自分の名前を記入した。自分の名前というより、ダンテの名前が正解か。


 渡されたペンは使った事がなかったし、今まで書いた事のない名前でもある。文字も日本語ではなかったけど、案外すらすらと書けるもんだな。流石ダンテだ。これなら、これからの生活に支障はないな。


 これを封筒に入れて皇室に送ってくれ、とカーチェスに指示をした。



「……あの、ダンテ様、もしや、ルアニスト嬢となにか……」


「あぁ、婚約を破棄した」


「……え?」



 信じられない、という表情だ。ご令嬢側はそんなそぶりはなかったはずなのに、婚約破棄となったなんて、と思うのは当然だ。だがこれは事実。令嬢のサインまであるのだから信じざるを得ない。



「向こうがそう言ってきたんだ、第二皇子と婚約したいとな」


「な……なんと……」



 小さい頃から決められた婚約だったはずなのに、ご令嬢はいきなり別の男に乗り換えた。公爵家当主から第二皇子に乗り移るなんて、人としてどうなんだ、と普通なら思うはずだ。俺だって思うさ。


 さて、これからどうするか。だが、行動は早く始めた方がいい。ダンテの名誉のためにもな。



「……カーチェス、出かける準備をしてくれ」


「え? あの、どちらに?」


「ん? 決まってるだろ」



 引きこもりが自ら外出宣言をした。そんな思いもしなかった俺の言葉に、カーチェスはだいぶ驚愕していた。


 だが構ってる暇はない。とりあえず腹が減って早く朝メシが食いたい。減りすぎて死にそうだ。


 ……それにしてもこの髪邪魔だな。長すぎだ。かき上げても降りてくるから余計うっとおしい。



 支度をして部屋を出た俺達を見た周りの使用人達は……カーチェス同様驚いた顔をしていた。2日間も寝室に引きこもっていたし、この廊下の先は食堂だ。


 けど、気にするだけ無駄だな。


 記憶では見ていたけれど、初めてのお屋敷となると周りをきょろきょろしたくなる。だが、それだと怪しまれるから我慢しよう。


 けれど一言。これだけは言いたい。


 ……何で全部黒なんだ?


 いや、記憶を辿ればその答えは見つかるが。でも思わずにはいられなかった。壁紙からカーペットからカーテンに至るまで全部黒系統だ。この家の人達が派手なものが嫌いだからこうなっているのは分かるが、これじゃあ葬式だぞ。


 だいぶ突っ込みたいところがいくつもあったが、空腹が最骨頂だったからと少し足を速めて食堂に。席に付くと、料理が運ばれてきた。テーブルマナーに関しては、ダンテの記憶もあるし、俺自身も前世でテーブルマナーを習っていたからこれくらい楽勝だ。



「……何だこれ」


「ダっダンテ様!?」


「もっ申し訳ありませんっ! 早く作り直しをっ……」


「いや、いい。美味いと料理長に言っておいてくれ」


「……へ?」


 

 こっちの飯は、地球と同じらしい。そして、この一つ星レストランにも負けないくらいの美味さ。地球で食べる予定だったカップラーメンとは天と地の差だ。さすが、お金のある家は違うな。これを毎日食えるなんて、役得ってこういう事を言うのか。


 それはさておき、だいぶ周りは必死だな。まぁ、ダンテに睨みつけられたらたまったもんじゃないか。


 とはいえ、俺はそんな事をするつもりは微塵もないけどな。



「カーチェス、頼んだものは用意したか」


「はい、こちらに」



 よし、じゃあ早く行くか。


 と、思ったのだが……この長い髪はさすがに邪魔過ぎる。食事の時にも邪魔でうっとおしかったな。今切るか? とも思ったがやる事をやってからにしよう。


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