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「はい」
「元々僕は、戦争をどうしてもしたいのならば、したい者同士、例えばA国とB国が戦争になったならば、それを決めた首相や大統領同士が一対一で戦えばいいじゃないかという発想があったんです。しかし現実味が低いのと、もし仮にそうなったらなったで、どこの国も権力者に、より凶暴な人物を選ぶということになってしまう。けれどもその代理戦争という言葉で、首相や大統領の代わり、つまり代理でその国の誰かが戦っていいという条件にすればいいのではないかと思いついたんです」
「しかし、そこでも鳥練磨博士が異論を唱えたのですね?」
「はい。何を言っているんだ、それは軍隊が戦う今と何ら変わらないではないかというご意見でした。ですが、果たして軍隊というのは権力者の代理で戦っているのでしょうか? 違うと思います。代理というのは、病気でできない本人に代わって別の人間がやるといった、代行するといったものであって、軍隊が権力者の代理であるなら、権力者が軍隊のトップの地位にあって指揮を執るというのはおかしいですよね。戦争の際に戦うのは国民なんです。軍隊はその代表ではありますが、国民も同じように戦うわけです。だからこそ、民主国家を名乗っている国でさえ徴兵なんてことが許されているし、民間人を攻撃して殺害することも事実上許されているのです。戦争をするのは戦争をすると決めた権力者が行うべきであり、しかし代理を認めるよ、とはっきりすべきです。とにかく、自分が誰かを殺したり殺されたりしたくなくて戦争に反対する人が、非国民などと非難されるというおかしなことが起きないようにするべきです。そういう批判をする人は、自分が権力者の代理となって戦えばいい。女性だろうが、年寄りだろうが、子どもだろうが、関係ありません。そして戦うのは日本の戦国時代の合戦のように広々とした原っぱのような場所で巻き添えが出ないようにし、なおかつ、武器は使用せず素手で戦うことにする。それを『戦争』と呼ぶように概念を変えるべきだとも同時に主張したわけです」
「そしてその考えを広めようと、あの戯曲を書いたのですね」
「はい」
「あれは素晴らしくよくできた作品だと私は感じました。本来すべてここで朗読したいのですが、時間の関係上それが難しいので、失礼とは思いますが、あらすじを簡単に説明させていただく許可を夢物語さんにいただきました。もし何かあれば、ぜひ遠慮なく割り込んでおっしゃってください」
「わかりました」
「お話の舞台は日本の山田家と川田家という、何の変哲もない平凡な二つの一家です。山田家の世帯主の六十代の男性と、近所に住む川田家の、同じく世帯主の六十代の男性がケンカをし、戦争に突入します。お互いの世帯主の二十代や三十代の息子たちが武器を持ち、鉢合わせになると直接戦いますが、基本的には相手の家や敷地を攻撃します。当然家の中には世帯主の妻や娘、息子の妻や子どもたちなどがいますが、それは仕方がない。戦争ですからね。そしてお互いの世帯主は、家の中の一番頑丈で安全な部屋にいます。息子たちは攻撃によって相手の世帯主を殺すことはできないとわかっています。攻撃するのは、できるだけ相手の家を破壊し、相手の家族を多く殺し、相手の世帯主から『降参する』という言葉を引きだすためです。途中、近所のある男性が世帯主たちに、自分たちが一番安全な場所にいて恥ずかしくないのかと尋ねます。それに対して世帯主たちは、自分たちが息子たちにどう攻撃すべきかを指示しているのだし、自分たちは戦争をしつつも生活のために働いて一家を養っていて、もしものことがあれば家族全員路頭に迷うから、仕方のないことだと答えます。しかし青年は、まったく罪悪感も迷いも感じていないようにしか見えない世帯主たちに納得がいかず……と、ここらへんで止めておきましょうか。最後までしゃべってよいとおっしゃってくださいましたが、やはりご覧になっていないリスナーの方にはぜひその目で観ていただきたいと思います。この作品は国内はもとより、海外の反響も大きかったようですね」
「はい。しかし初めから世界中の人たちに伝えたいと思って、何度も足を運んでPRしたからということもあります」
「それ以来戦争は起きていませんし、独裁政権が二つ倒れました。その作品の成果だという声も多く聞かれますが?」
「どうなんでしょうか、わかりません。ただ、とにかく僕は伝えたかったのです。権力者は危機感をあおり、国民を守るようなことを言いますが、実際に自分は体を張らない。戦争はやはり国民の大多数が許さなければ起こせないのであり、なんで自分たちが戦わなければならないのだ、おかしいだろうと、気づいてほしかったのです。もしも自ら体を張る度胸のある権力者が現れても、それはそれで国民が危険にさらされないのだから構わないわけです」
「鳥練磨博士からは何もなかったのですか?」
「はい。あ、いえ、ありました。僕は鳥練磨先生を打ち負かせたような気分で、浮かれた部分もあったのですが、僕の代理戦争論が広まって、賛同してくれる人が多かったなか、『暴力は暴力を生むだけだぞ』と一言。先生は行方を見守るというかたちをとっただけであって、この考えも評価してくださったわけではなかったのです」
「私は、かなり評価はしていたから、強く反論しなかったのだと思いますが」
「僕はそうではないと解釈しています。民主主義は世襲によって運悪く出来の悪い権力者を生んでしまう可能性を回避する代わりに、とんでもなくずる賢い人物を権力者にのし上がらせてしまうこともあり得る制度なわけです。そして権力者にのし上がる知恵のある人間は、ある犯罪に対して有効な対策がとられるようになっても、賢い犯罪者はまた新たな犯罪方法を考えだしてしまうように、今は有効に機能しているかもしれない僕の考えも乗り越えて、民衆を巻き込む戦争を始めてしまうかもしれないと思うのです。まだまだやるべきことはたくさんあります」
「なるほど。お時間が来てしまったようです。夢物語さんの今後のご活動、ご活躍を、楽しみにしております。本日は誠にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」




