1話
なんだ? ……何がおきたんだぁ?
突然の出来事にわいは何も反応ができなかった。
面白いほどに何が起きたのかわからない。これは何が起きたんだ? どういうことが起きたんだ? 今俺はどうなってるんだ?
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
大声を出してみた。心のそこからの喉奥からの最強の大声を出してやった。
生まれて初めて、ここまでの大声を出したかもしれない。わいはこんなに大声が出るのか。わいの喉の強度がここまでとは予想もできていなかったな。わいは最強だ。
え? 痛い!! 体が痛えぇぇぇ!! マジでやばい。腕も足も頭も腹も……痛いところがないくらい痛えぇぇぇ!! 何が起きているのかやっとわかった気がする。わいは、わいは……さっき、大型トラックにはねられたんだ。そうだ、宙を舞った衝撃で忘れてしまっていた。死ぬほどの体験をしたばっかりじゃないか。
地面に転がっている感覚も思い出してきた……わいは今地面に転がっているんだ。とてつもない激痛にのたうち回ることもできずただただ地面に転がっている。これは、もうどうしようもないな。わいはこのまま死ぬんだ。死ぬしか道は残されていないんだ。どうしようもなかったんだろう、あのタイミングでは避けることなんてまず不可能だった。避けようと思う暇すらなかったんだ。瞬殺だったな。わいの人生はこの大型トラックにはねられて死ぬだけのものだったんだ。そう思うと、急にどうしようもない感情の波が押し寄せてくるな。どうすればよかったんだ? 道路に急に飛び出さなければ良かったのか? いやいや、そんなこと言われても勢いがついてたんだからしょうがないだろう。むしろ、大型トラックが公道を走ってなかったら良かったんじゃないか。わいは悪くねぇ。どう考えてもわいよりも大型トラックが悪いだろ。
しょうもないことを考えている間に微かに残っていた意識も闇の中に消えていった。
「すこんぶ!!」
「どっひゃぁぁぁーー!!!」
「え? なんだ今の声?」
耳元から素っ頓狂な声が聞こえてきた。それも馬鹿みたいに間抜けな声でだ。こんな声を人間が出せるとは思えない。俺のすぐ横には化け物がいるんじゃないだろうか? いや、間違いない。俺の横には化け物がいるぞ。どうしようか。喋っちまったけど、今更ながら目をつむって寝ている感じを出すしかないよな。わいは寝ています。
「なんで急に大声出すのよ!! ビックリしたじゃない。ほんとどうなってるのかしら」
「うん? 普通の女の声? いや、違うな。これは女の子の声を出すタイプの化け物だ。たまにいるんだよ。こう言う狡い真似をしてくる化け物が。残念だったな。その程度でわいは騙されねぇぞ。わいは寝てます」
「それだけ流暢に喋ってる奴が寝てるわけないでしょうが!! 早く、起きなさい。私だって暇じゃないのよ」
「わいは寝てます。用事がある方はわいが起きてから対応しますのでしばらくお待ちください」
「舐めてるんじゃないわ、叩き起こすわよ。それとも、このまま地獄に落としてやりましょうか。そうね、後三秒以内に起きなかったら転生させてあげるのはやめて地獄に落としましょう。はい、いち……にぃ」
「はぁっ!!! 今起きた。もう起きた。とてつもない速度で起きた!!」
「だからデカい声出すんじゃないっての。ぶち殺すわよ」
わいを地獄に落とそうなんてこの化け物、なかなかにたちが悪いな。もうあと一秒寝ていたら確実に地獄に落とされていたということだ。もしわいが本当に寝ていたらどうするつもりだったんだよ。少しは考えて欲しいな。
もう起きないといけないのかと考えるとものすごく憂鬱な気分になった。なぜだか知らないが、体を起こそうとうするとすさまじい倦怠感が体を襲う。もういっそ、このまま寝ていたほうがわいの人生楽なんじゃないだろうかと本気で思うほどだ。
「さぁ、早く起きて。まずはそれからよ。きついでしょうけど、体を起こさないことにはあなたの魂が生き返らないのよ」
「よっしゃぁぁーーー!!! 起きたぜ!!」
「どっひゃぁぁぁーー!!!」
「え? わいのすぐ横にやっぱり化け物がいるよな。お前まさか、化け物が擬態したおんなじゃないだろうな?」
「近くででかい声出すなぁ!! ぶち殺すわよ。どうして一回言ったことを平気でできるの? 頭がおかしいのあなた? いくら何でもサイコパス過ぎるでしょ」
「人をサイコパス扱いするなんてさては化け物だな……え? 今まで見た中で一番可愛い……」
ついに、起きて化け物との邂逅だと思った矢先、わいは女神を見た。
それはもう神のごとき美貌だった。わいの表現力ではこの子の可愛さの92パーセントくらいしか表現できないだろう。すさまじい、これが化け物が人間を模倣するときの姿なのか。これなら、騙されて殺されても本望だ。
「いきなり何よ。照れるじゃない。でも、私が美しいのはまぎれもない真実よね。もう二度とあなたの目の前に現れることもないからしっかりと目に焼き付けておきなさい」