虐殺者と被害者
領主の息子の、その妻子を確保。現在、獣人4名、妻子、我ら師弟とデカカエルの計9人でダンジョンの出口手前で待機している。
外に刺客が張り込んでいるのは明らかなので、突破の為の準備中。ついでに乙女ちゃんに魔法についてレクチャアするか。
戦闘に不慣れなのは仕方ないとして、魔法少女に関する知識もまるでないのには驚いた。チュートリアル期間とかどうしていたのだろうこの子は。
獣人たちとの擦り合わせ中に気付けて良かった。
「試しにモンスターを召喚してみるよ」
魔法少女の身分証明書、スマートホンの形をとる《契約の魔道書》を開き、ページをスクロールして魔法の巻物を表示する。
「召喚・我武者羅」
スクロールに記された、広げた翼の様な文様が輝き、小鳥のモンスターが召喚された。
「かぁー!かぁー!」
「この子はガムシャラ。レベル1の雑魚モンスさ」
「かぁ!?」
ガムシャラ、何か驚いてる。厳ついお姉さんばかりいてビビったのだろうか?
「ああ!そ、その鳥さん、隊商を守った!?さっきも暗殺の人を吹き飛ばしてましたよね?あんな事しておいて、雑魚モンスターなんて嘘です!」
「かぁ!」
「ふむ、そうだな、今朝渡した包みがあるでしょう。あれをガムシャラにぶつけてみて」
「かぁ!?」
「え、でもこれは。わかりました。えい!」
迷いなく紙包みを投擲した乙女ちゃん。包みは緩い放物線を描きガムシャラの顔面に直撃。べちょりと地面に落ちた。
「かぁぁぁぁぁ」
「おお、モンスターが軽い投擲で大ダメージを。いったいどんニャ魔法の武器が入っているのニャ」
「いや、それは今朝買ったパンだよ」
「ほ、砲丸パン。固い固いと評判でしたが、聞きしに勝る、まさに砲丸!」
乙女ちゃんが砲丸パンに戦慄している。おののく所はそこじゃない。
「いや、流石にそこまでは固くないウサ。そのモンスターが、余りにも弱い、いや、柔いのだろウサ」
「ご明察」
ウサギのお姉さん、ギロチンゼラチンがフォローを入れてくれた。そう。パンがヤバいのではない。ガムシャラがヤバいのだ。
「モンスターなのに、パンがぶつかった位で大ダメージを受ける。本物の小鳥かそれ以上に脆くて弱い雑魚モンスなのさ」
パンとガムシャラを拾いあげ、回復魔法をかけてやる。途端に元気に飛び回るガムシャラ。0階級の私の魔法でも全快するくらい、低い体力のモンスターなのだ。む、パンもなんだか焼きたての様にツヤツヤに?回復魔法おそるべし。
「でも、脆弱だからこそ、この子はモンスターの大群だって全滅させられる可能性を秘めているのさ」
「な、なんと、凄いです師匠!ガムシャラさん!」
「クァ、クァ、クァ!」
ガムシャラ。胸を張って偉そうである。
「この子みたいな特殊なモンスターのおかげで、0階級の私でもこうして冒険者の仕事が出来ている。見てごらん」
私の薄い本を乙女ちゃんに見せる。ガムシャラを示してる紋様の横にHPという文字と、横に伸びたバーが記されていた。
「それは打撃点、または生命点と呼ばれてる。数字が0にならない限り、召喚したモンスターがこの世界に存在できる保障のようなものだよ。えいっ」
「カァー!?」
ガムシャラを砲丸パンで殴ってから、薄い本を再び見せる。表示されたバーは急激に減少。HPが1だけ残る。
「くぁくぁくぁ!」
ガムシャラ、抗議するように元気に飛び回っている。見た目はボロボロだが。
召喚されたモンスターは、こんな風にどんなに傷ついても、HPが0にならない限りベストコンディションで動けるのだ。
「ぜ、0になったら死んでしまうのですか?」
「0になっても再び召喚してしまえばモンスターたちは元通りの姿で復活するよ」
そのため、召喚されたモンスターは、不死の存在がこちらの世界に来るためにダウングレードした姿、偽りの生命体、影法師の様なもの、と予測している魔法少女もいる。
「だからこういう戦い方ができる。虎口同等、発動」
薄い本内のガムシャラを示す紋様に触れ、《スキル》欄を追加表示、虎口同等を選択する。
スキルとは、我々魔法少女で言うところの魔法のような、召喚モンスターが持つ特殊能力のことだ。
スキル欄によると、虎口同等は対象とガムシャラの『HPを同じ値にする』スキルと説明されている。
「つんざけ ガムシャラ」
かあ かあ かあ
だがそのスキル説明は、対象が同じ召喚モンスターである場合適用される効果だ。
「なにこれ?体が」
至近距離で鳴き声を聞いた乙女ちゃんがまずその効果を知る。
続いて獣人たちに御曹司の妻子、そして外で待ち構えていた刺客たちに届いた。
「HPという値が存在しない現実の生命体には幻覚、痛みや疲労感として反映されるみたいでね。あとはこうやって、独り動けるガムシャラがゆっくり始末していく」
ほのぼのとした作業風景である。
ついばめ ガムシャラ




