ノーモア☆魔法少女ズ
「やば。領地に侵入したこと、旧友にバレてたみたいブヒ」
「ああ!梅鉢千代古さん?魔法少女雇ってるンダネ☆いいなあ。なりかたのコツとか教えて欲しい」
「お二方、こんな地獄みたいな場所で、よくもまあ仄仄としていられますね」
呆れた声を返すのは黒龍領主梅鉢千代古の使者として現れた魔法少女、おべべオーベイベ・デンドロビウムエンゼルベビー。なりきりセットカタログに載ってた短歌は
温室を
飛び出し枯れる
キンギアナム
岩でもさける
はずだったのに
人の手が入るからだ!
原始にかえれ!
御使いよ我に力を!
oh!angel!
angel!
angel!
angel!
自由律が過ぎる。今、目の前にいる本人は一見、理知的な振る舞いをしているがその本性は破綻した狂人だ。こちらも狂うことで対抗するしかない。だから、弔う予定だった山賊たちを散らかした。気の利いたお出迎えでこちらのペースに持ち込むために。
「ふむ。山賊のクセに栄養状態が良いモグモグ」
こいつ、人を食ってる!?只人のクセにッ?
(狂人の度合いを見誤りましたな。だがまあ、まだ魔法少女の規格内)
只人には聞こえない声量・音域で桔梗と会話し、対応を考える。
おべべオーベイベは狂人だが真面目な魔法少女だ。豚獣人とハイエナ獣人が仲良く人肉を散らかしているのを見て食事会と思ったのだろう。実際そう思わせるのが目的だったが。だから彼女は真面目に考えた結果、友好を示すために食べてみせたのだ。別の手でいくしかない。
「あー、いっぱい食べたらちょっと繁殖もしたくなっちゃったブヒ。メロウきゅん、ちょっとベッドにいこ」
「ブフォ」
流石は知恵者桔梗姫橘。龍帝の賄方フォーミュラ木瓜と並ぶ政治の怪物。食人にも躊躇しない魔法少女を動揺させるとは!
「えー?脱ぐの面倒だから着たままで良いカナ☆」
「てててて手慣れてるぅ!」
(奥へ入ったらそのままずっとベッドを揺らしていて頂きたい。その隙に私が回り込んで彼女を仕留めます)
「イイケド、スイッチ入ったらオデ、致してる間にビリビリに破いちゃうブヒよ~」
桔梗が別々の音域で僕に話しかける。彼はあの巨体で、気取られずに奇襲をかける技量があるのだ。この家の山賊たちの事も、大きな傷も付けず全員処理していた。まあ結局、おもてなしの為にずいぶん損壊したが。
「じゃあお客人、ちょっとまっててブヒ」
「おおおおお構い無くぅ」
桔梗の胴に抱き付きつつ引き戸に手をかける。焦ったらだめだ。いや、演技がバレる事への緊張をこれからする事への高揚と誤解させれば良い。お芝居は得意だったはずだろう。先生方は一流だった。教わったことを思い出せ。
「ぁはぁーん」
震えを嬌声に誤魔化して吐き出し、戸を開ける。
「やぁ。お坊主ちゃん」
一枚の畳の上に魔法少女が立っていた。
「それは人にあげたものなんだ。かえしちゃくれないかい」
僕の着ている魔法少女なりきりセットと自身のそれとを交互に指差す彼女。シンプルながら美しかったはずの彼女の衣装は色褪せ、裾や縫い目は襤褸に近い。
魔法少女の衣装はここ一番の決闘の時に勝手に装着される戦装束と聞いている。それが、何年も野晒しにしたように草臥れている。
ずっと着ているのだ。何ヵ月か何年か。ずっと彼女の戦いは終わっていない。イカれてやがる。
「代わりと言っては何だが、あ、ごめん。代わりになるもの何も持ってなかった。真心しかないけど受けとっちゃくれないかい。ダメか?うははは」
彼女は、侠客幇から賞金を懸けられ、girlish・ghoulishから永久追放された、大侠客にして魔法少女無患子躯枢柩。カタログで見た短歌は
わずらわず
やまずいたまず
おいもせず
されどもうまず
無患子の珠
衣装の意匠はムクロジ。花言葉はない。




