北方中央部の一地方
全身を剃ることにした。どうせ頻繁に毛が抜けて煩わしいし、廃熱を少しでも効率よくした方がマシだと思って。
放熱板を調達することも考えたが、僕にとってあの板は荒事の象徴なのでやめた。身に付けたら魔法少女に至る道から遠退くのではないか、と懸念して。
豚獣人桔梗姫橘にも一応相談したが、合理ではなく理不尽、理性でなく感性を重視すべしとご教示いただいたので己の感覚を信じる事にした。
「いや、メロウきゅん。全身剃毛するって言ったって頭髪はいかない方が良いブヒよ。獣人の文化圏でも只人の感覚でも」
先ほど自分自身を信じろと言った口でこれである。やはり大人は信用ならない。桔梗の頭を指差し黙示した。
「オデはそもそも生えてないの!」
あなたの理由などどうでも良い。僕の納得が全てに優先する。魔法少女ならそうする。
「やめろっつってんだろ!丸坊主の美少年つれてる劣等種の獣人とか、組み合わせのヤバさ想像して!虐待を疑われるから!魔法少女とか関係なく死ぬから地元の皆さんの手によって!!」
それは困るな。しかし、僕を止めるにはあと一押し足りないな。
「…魔法少女は字の通り、魔法を使う少女だから。少女が丸坊主に、うん、そんなになりたがらないと思うブヒよ。オシャレで髪弄ってる方がッポイと思うブヒな。オデ個人の感想としては」
「あ、なーる☆100パーセク納得しタ」
多苦処谷とかいう地獄めいた名前の景勝地で川に入り、剃った毛を流している。悪名高い古戦場の近くであり、周辺は定期的に火山ガスが発生するとかで人の往来がないため潜伏にうってつけの場所なのだそうだ。そんな場所に当然いる山賊連中は二人で始末したので魔法少女的にも徳を積めて一石二鳥である。
連中、落武者狩りでもしていたのか、あるいは本人の出自が落武者なのか、高級な生活用品を多数所持していたので、そこから守刀を頂戴して剃刀代わりに使っての剃毛である。刃に錆びもなくよく手入れされていたのでするすると毛が落ちていく。
「流行ってるんでブヒかね魔法少女なりきりセット。衣装箪笥の衣紋掛けに吊るされてたブヒ」
一度潜って毛を落としてから桔梗のもとへ。水を吸わずに弾く己の新しい姿に少し気分よくなりつつ新衣装を受けとれば、
「うわ!無患子軀枢柩だ!チョーレアじゃん」
「むくぅ……ナンテ?」
受け取ったなりきりセットは、カタログにも文字情報しか載ってなかった少数生産品だった。
たしか魔法少女本人が身内への贈答用に依頼して、ライセンス契約は断ったとか、girlish・ghoulishの広報紙で紹介されていた。
山賊の人たち、親類縁者だったのだろうか。やはり戦争や貧困は悪だ。魔法少女になった暁には撲滅の為に活動していきたいと思う。だから僕を魔法少女にしてください神様仏様。




