神の座へと至れよ皇子9!!
「さて★遠回りをしたがやっと手に入った☆十数年なんて誤差だけど★良いところで取り上げられると★一日千秋とはこの事か★と気付かされるね☆あとはラピュータのスウィフトと竜宮城の玉手箱を回収して……」
「考え事かい珊瑚蛇」
「これは千日紅殿☆いえ★少し故郷に思いを馳せていたのです」
「尾長帝国がそうだと思うけど、もっと具体的な場所、ということかな」
「思えば遠くに来たものです☆こんな★ずっとずっと端の方まで」
「一族発祥の地じゃないのかい?」
「そう聞きますが★もうずっと過去の話ですから」
「ふぅん。帰れると良いね」
「ええ★やっと帰れます」
「ねぇ珊瑚蛇」
「なんでしょう∞」
「本音と建前が逆になってるよ」
「えっ★もしや夢ですか∞」
「そうだよ」
モカ姐さん本体の葬儀の仕度を獣人の皆さんに任せきり、魔法少女たちで千日紅師匠の地獄の特訓を終え、ヘトヘトで寝床に就いて、気付けば真っ昼間になっていたのでよっぽど疲労していたのかと思ったらこれ夢なんですね!
梟臭城内の大きな桜の木の下で、珊瑚蛇殿下が何やらぶつぶつと呟いているのを師匠が見咎め、何やらが確定したようなのですが、何事なのでしょうか?
「バレてるなら仕方ない☆はじめまして千日紅殿☆朕こそは尾長帝国は前龍帝★オスマーンコブラだよー☆きみたちが聖櫃へと至ってくれたお陰でこうして同期できた☆この肉体は草庵で君が言ってた通り★集大成なのだ☆助かりました」
「ウスマーン……雁の雛?蛇の子。なるほど、『我こそは竜の後継なり』。帝国で良く聞く口上は、龍帝への避諱読みから派生したのか。寄り親が蛇の子で、自分たち寄り子が『コブラの子』じゃ呼び捨てみたいにになっちゃう。ああ、家臣が龍の子と名乗るようになったから自分は龍帝に改めたのか。面白い。変な感嘆詞だと思ってごめん」
「ぬぅ!体が重っ、臭っ。え、儂もとのオジサンに戻っとる!え、儂こんな臭いの!?」
「シバ公、煩いぞ。千日紅先生を遮るな。ここは夢の中だ。本来在るべき姿に戻るのだろうさ」
「いやだ!戻して!御前だけずるいぞ」
後ろの方で砂糖卸の武装商人にして耳長王国前福王ヴィタヴィクティム公と龍帝の重臣柴舟雁金公も出現し、騒がしくしています!忠告しようとしたらヴィタ公に先に忠臣ムーヴかまされました!一番弟子は私だからな!
「久しぶり★シーバ」
「……まさか、陛下ですか」
「もう龍帝じゃないよ☆ただのオスマーンコブラさ☆ねえ★シーバ★キミさえもし良かったら★また昔みたいに」
柴舟公が、夢中にて無手からとりだした大段平を、推定龍帝らしき人物に振り下ろしました。
「血筋の誰かが自分を名乗ったら誰であっても斬れ、と生前申し使った」
「謀ってると思った∞シーバIC1805朕は正真正銘」
「陛下から誰であっても斬れと申し使った!例えあなたと確信しても儂は斬る!!」
忠臣の鑑!魔法少女集会・御簾の帽額の皆さんのように、忠臣であるからこそ、主君にすら刃を向ける。私に、同じことが出来るのでしょうか?
いえ、何年も何十年も仕えてきた方たちと、まだ現実の時間では3日経ったくらいの私では、忠義の篤さは同じでもその深さは比べるべくもないのでしょう。
夢の中なせいか、コーヒーの香りが鼻腔に再現された。報い、報いだと、そんなものを師匠に受けさせてなるものか!
「困ったな☆ヴィタシオの末裔は協力してくれるよね∞帰還はエルフも悲願でしょ」
「ヴィタ君、仲良いの?」
「ご心配召されるな千日紅先生。その者が言う悲願とやら、獣人に一定数現れる邪教の類いです。なんでも自分達はこの大地から遥か遠く《星の彼方》へと旅立った人類の子孫であり、我らエルフは《一つ上》の世界へ旅立った、元は同士だとか」
「それ、古い家系にしか残ってない秘伝とかなんじゃないの?私に言って良かったやつ?」
「超越者と言うらしいですが、まあ、獣人の妄言に、エルフは付き合っていません」
ヴィタ公が、気位の高いエルフの貴種が、師匠に跪き両手を投げ出し完全に平伏しています!現実では、問題になるから、かえって師匠の迷惑になるからだ!ここが夢の中だからここぞとばかりに!誰に憚ることもなく師匠に全霊で仕えてるんだ!こ、こいつ私を差し置いて!きっとカフェオレどころか無糖のブラックな師匠すら平然と飲み干すぞこいつ!
「ふむ☆千日紅殿は∞」
「オミナエシの前領主を予防したのは虐殺の阻止は勿論だが、価値観の違いすぎる獣人国家へのアドバイスが欲しかったからだ。それだけフォーミュラ木瓜が困難だった」
「それについてはありがとね☆聖櫃を荒らされてどうなるかと思ってたんだ」
「フォーミュラ木瓜を予防したのは亡国の抑止は当然だが、あの城の地下へ行くことでお前を釣りだすためだ。珊瑚蛇を囲わせてたのもいつか、どこかの機会でお前を予防するためだ。ここが一番マシな選択と視たからそうした」
「ふむ☆千日紅殿★朕もそうする気だね∞」
桜の木がグラグラと揺れ、庭園の土が盛り上がり、その下から大きな、ギラギラと輝く金属の塊が地上へ飛び出しました。
そのまま金属は天へとどんどん太く長く延びていき梟臭城は完全に崩れ去りました。
ここが夢の中で良かった。現実で同じことが起きたら、私達や城内の皆さんは死んでいたでしょうから。のし掛かってきた壁や石垣を、綿の様にふわふわと退かしながら天を仰げば、巨大な、空に蓋をするほど巨大な蛇が宙に浮かび、地上の私達を睨み付けていました。
「それが本体なのかい龍の子機。なんて呼べばよい?」
「名前か★恣意的つけるなら宇宙蛇かな∞」
あの巨大な金属の蛇の光沢、私達が侵入し、フォーミュラ木瓜さんと戦ったあの地下施設と同じ?いえ、あの蛇の腹の中こそ、私達が戦っていた地下施設なのでしょうか!?
「厄介な存在だよ魔法少女☆次元人は古文書にあった☆君たちは知らない☆いったいいつからこの星に居たの∞」
「知らないよ。最初から居たんじゃない?夢見る少女なんて、神話の頃からいるものでしょう」
「ああ遍在☆一切衆生悉有魔少☆それは赦されない☆朕こそは最も神に近い超人類だ☆魔法少女は全て滅ぼす」
宇宙蛇なる巨大な、どうやら獣人さんの一種、の背中から翼が伸びて空が更に暗くなりました。
宇宙蛇の舌が珊瑚蛇さんの肉体を絡めとり呑み込むと宇宙蛇さんの円らな瞳に意志が宿りました。あれが龍帝の真の姿!!
『夢でも現でも塵の様に消し飛ばしてあげる☆』
「放熱板を広げたね本体」
師匠の眩しい笑顔!瞳も美しく輝き、陰った空を再び青く塗り替えさんほどです!
「獣人は、長時間の戦闘では熱が籠って参ってしまうからみんな放熱板を背負っている。塵掃除にどれだけ時間をかける気なんだいドラクル」
『君を見てきて油断する訳ないでしょ☆煽ったって判断を誤らないよ∞史上最強の魔法少女』
「え?今なんて?」
『……史上最強の魔法少女∞』
「うふふ。うははははは光栄だなぁ。光栄だ光栄だ」
『惑星掘削機★兵器転用最大出力☆』
「録画するからもう一声くれないかい?天下の龍帝陛下からそんな風に褒められるなんて。うふふ。うふふ。モカ姐さんだって言われたことないだろう。うふふふふふ」
『……照射☆』
「アハハハハはハハハはハハハはッ!《真名書き》終食め、迦楼羅」
かあ かあ かあ
強烈な光と孔雀の鳴き声が世界中を埋め尽くして、瓦礫となってた梟臭城が更に粉微塵になりました!




