御鳥巣にて臥す3
蜂の大顎が、杖の切っ先から大きく逸れて斜め後ろへと突き抜けて行きました。すかさず待機組が寄って集って袋叩きにして巨大蜂を消滅させます。HP0のペナルティとしてリキャストタイムが発生し、しばらく召喚されることはないでしょう。
「木瓜さま!何故、私を」
「体が動いたのじゃ畜生!」
夏都シダレモモさんが完全に首だけになったメカフォーミュラ木瓜さんに駆け寄ります。
メカモカ姐さんは射出したままになっていた獣人ロケットパンチを呼び戻し、その推力によって己の体を砲弾に見立てて巨大蜂にぶつけ、その軌道をそらしてくれたのです。
別の肉体扱いで魔法少女に変身出来なかったから、てっきりこの決闘の場からも除外されていると思い込んでいましたが、精神が同一人物だから参戦できていたのですね。
メカモカ姐さんをかき抱くシダレモモさんの背中をさする常磐時輪木香花さん。ダレモさん、正気に戻ってくださいましたが、その理由が何度めかの大切なものを失うショックだった事であったのが、何ともやるせないです。
「なあ乙女サンよ。ちょっと相談なんじゃですが……ごにょもこごにょ」
老成されたモッコさんが、年相応のいたずらっ子の顔で私に共犯を持ち掛けてくださいました。そ、そんな、そんな事が許されてよいのですか!
「うちのリーダーも覚醒したことじゃですし、ちょっとあそこのボスをぶちのめそうじゃないじゃですぜ。世代交代の時期なのじゃです」
「ダレモちゃんが死ぬもよし、何か狙っていたメカモカ姐が庇って行動不能になるもよし、どちらにせよサークルメンバーが動揺すれば《より楽に勝てる》。流石だね。なんでそれで7階級までいけたんだい」
「さあ?《あれ》に聞いてくださいな」
「あれっきりあってないなぁ。キミはどう?」
「うふふふふふふ」
崩れかけた体制を建て直すため、戦闘班に混ざってフォーミュラ木瓜魔法少女verさんの猛攻を食い止める千日紅師匠。その麾下に加わるため、仕込みを終えた私はダレモさんモッコさんと共に駆け付けました。
「私の代わりに、そこに立ってくれてありがとう。森田千日紅」
本当は、そこに立つべきは、お諌めするべきは自分の役割だったのに、とシダレモモさん。
「へえ、確かにその若さで既に四階級。とんでもない逸材だったけど、基本そこで位打ちなんだよね。並みの魔法少女は」
師匠に称賛を受ける、魔力を溢れかえらせた凛々しい佇まいのダレモさんの姿に、満面の笑みを向ける至福ロールリエさんが私の視界に入りました。ルリエさん、そういえばいつの間に師匠と共謀していたのでしょうか?オミナエシ領で私が出会う前なのでしょうか。
「おおおおおお!」
横に並ぶダレモさんの魔力が、床を割り空気を震わせる物理現象を伴って増大しました!師匠!こ、これは一体!?
「愛や正義で五段目を昇る子はみたことあるけれど、忠義でそこに踏み込むのは初めてだなぁ。おめでとうシダレモモ。0と1の間に大きな隔たりがあるように、前段と折り返しには天と地ほどの差があるんだ。君が引退させたげな」
「ともにいこうシェイプシフト 舞台は夢」
ダレモさんがとっておきの魔法として、契約モンスターさんを召喚。スキルを発動させました。あの夢の中での冒険で一緒だったモンスターさんのスキルを。
「じゃじゃーん!衣装の意匠は木瓜!花言葉は『情熱』。正義のヒーロー、プライベート・モカ!拝謁を許そう。苦しゅうないちこう寄れ!」
でたぁぁぁ!真モカ姐さん!私たちにとってはこの方こそが正真正銘、最もオーソドックスなモカ姐さんですよね師匠!
「その通りさ乙女ちゃん。魔法少女の全盛期って、当然少女時代だからね。肉体が7階級の魔法少女だろうが、精神が帝国の筆頭家老だろうが、その程度の輩に本物のモカ姐が負けるわけがないんだ」
「無茶振りが凄すぎんかなお前たち!?」
さっそくツッコミ!流石は真モカ姐さんです!
「木瓜さま!私と仲間とそして木瓜さまが、あなたに引導を渡します。お覚悟を!!」




