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オトメチカ  作者: 感 嘆詩
第1章 千日紅
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獣人と魔法少女

「それで、その、千日紅師匠は《使い魔の魔法少女》なんですか?」


「何の話……ああ、そういうことか。魔法少女には、冒険者たちの間でウワサされてるような個別固有の魔法なんてないよ。個々人の思想心情や得意分野で扱う魔法に偏りがあるかもしれないけれど、皆覚える魔法は同じ、らしいよ」



 薄暗いダンジョンを歩きながら乙女ちゃんにレクチャアしていく。みんな、《それ》と契約して魔法少女になるのだ。皆一様に《それ》から魔法を授けられたから、皆一様に同じ魔法しか使えない。階級によって威力こそ変わるが。


 だから、乙女ちゃんのイメージするような《使い魔の魔法少女》は存在しない。せいぜい《使い魔が得意な魔法少女》がいるくらいだ。


 魔法なんて、普通の人は使えない。魔法少女も、使えない相手に上手くニュアンスを伝えられない。だから内情を知らない冒険者たちの間で、魔法少女に対するこういった誤解は多くあった。


 心の綺麗な者しか魔法少女になれない、というのも誤解の一つだな。階級を上げるためには必要な素質だが。



「覚えられる魔法ってみんな同じなんですか!?へぇー。え、でも千日紅師匠はあんな凄いモンスターたちを召喚していたじゃないですか。同じなんてとても。私には無理です」


「苦肉の策なんだよ。0階級の私には攻撃力のある魔法が使えない。召喚魔法だって、高レベルのモンスターは言うことを聞いてくれない。だから低レベルでも破壊力を持たせられる子達と召喚契約した」



 もちろん、どこにも例外というものは、共通の魔法以外を使うものは、中にはいるが。



「乙女ちゃんも、時間あるときに契約してみようか」


「は、はい!ばっちこいです」



 さて、とりあえず今は……もう少し探索かな。ゴブリンを探して、しらみ潰しの時間潰しだ。






「ゴブリンがこんなに?まずいワンね」


「何がまずいんだい?ダンジョンなんてこんなもんだろう」


「いえ、」



 犬獣人ビッグ・ザ・ワン大神の呟きを拾って聞き返してみたが、言葉を濁された。今回パーティを組んだ4人の獣人たちの中でも、特に理知的で頭の回りそうな彼女が取り繕いの言葉を吐けないくらい、疲れていた。


 探索して一時間ほど経つ。息も徐々に上がってきて、さすがにみんなの集中も続かなくなってきた。



「そろそろ休憩しようか。アン置(※アンチ・モンスター発生空間装置の略。侠客幇(冒険者ギルド)中央歩哨サービス(セントラルセンチネル)girlish・(魔法少女)ghoulish(てぃーぱーてぃ)等が協同で各地のダンジョンに設置しているんだ)を探してくるよ」



 辺りを視て、広い空間に出る道を見つけ出し、そちらに足を向ける。



「そっちは行かない方が良いニャ。ちっちゃい方の千日紅ちゃん。最近、凶悪な」


「知ってるよ。御曹司の奥方とご子息を、匿っている(・・・・・)んだろう。丁重に(・・・)獣人の流儀で(・・・・・・)おもてなししてさ」



 背中に感じる熱量が増した。燃料を増やした。多分、視る限り、どう言った所で抵抗されるし、なら素直に言うのが一番なのかな。



「私が君たちの不安を取り除いてあげるよ。抜本的な解決(・・・・・・)、というやつだね。何、お礼はいらないよ。私も仕事だからね。あ、でも一つだけ」



 獣人たちに振り返り、なるべく笑顔で友好的に。



「《ハーピィ007》はどこにいる?それだけ聞ければ良いよ。その放熱板よろしく、肩の荷を降ろして楽にして(・・・・)あげる」


「なるほど、お前か(・・・)



 4人のリーダー格、鼠獣人の猪屠権(ちょさくけん)屠猪(フリィ)が片刃剣を抜き放ち構える。それをスイッチに獣人全員が気炎を揚げる。まあ、物理的にも熱気が上がっているのだが。


 うん、やっぱりどう言葉と心を尽くしても揉めるんだよな。仕方ない。



「加熱しろ」



 火と風の魔法を使い、一気に熱を増やした。彼女たちがその背に担いだ放熱板に、本来ならば熱を発散するその装備に魔法で無理やり、気付かれないよう少しずつ溜め込ませていた熱を、ここにきて一気に。それによって引き起こされるのは



「熱チュー症…ッ!?」


「平生の君たちならすぐに気付いたろうね。でも今は、守るものがある」



 その熱は獣人たちを大幅に弱体化させた。それでも彼女たちなら、小娘一人どうこうするのに造作もないだろうけれど。持久戦は得意だからね。戦意をうしなうまで時間を稼げば煮るなり焼くなり好き放題だ。まあ既に蒸し焼きにしているが。



「か弱い子供が2人。眼が曇ったワンね」


「卑下しちゃだめだよ。その優しさは美徳だぜ」



 睨まれた。誉めたんだけどな。



「是非もニャし」



 猫獣人のキキキが

 いの一番に放熱板をパージ。肩の荷を降ろした。


 バラバラとパーツごとに分かれ散らばっていく放熱板。そのままスムーズに地面を滑り、掬い上げるように私へとその金属パーツの群れが突っ込んできた。



「弾け」



 砂利が巻き上がり、放熱板だったものの軌道が変わる。



「ふむ。これは視えなかったな」


放熱板(フィン)に偽装した私の(ファング)。故にキャットナインテイルと名付(ニャづ)けた」


「故に?牙なのか尻尾なのか。どっちなんだい?」


「牙!」



 私の《未来視》は魔法少女に対して効きが悪い。不鮮明になるか、著しい時は今回の様に全く感知出来ない。つまり猫獣人のキキキは魔法少女なのだ。完璧なリクツである。



「へえ、魔法の存在を心底信じてた少女しか、魔法少女にはなれないはずなんだけど。獣人の文化圏でその精神性が確保できるものなのかい?」


「好奇心旺盛ニャ少女だったのよ。だからかニャ」



 放熱板に偽装して武装した獣人の魔法少女ね。特異も特異、珍獣じゃないか。本当に同じ魔法をつかっているのかね?まさか、プリンセス階級?それとも風や熱の魔法の応用?


 ふむ。いや、今は細かいことは良いか。相手が魔法少女ならば、始まっちゃうし。



「見ておきなさい乙女ちゃん。魔法少女同士が戦う時は、ちょっと特殊な演出がはいるんだぜ。本番で恥かかないように、おべんきょだね」



 《それ》がキメたルールだから、まあ、その場その時になったら勝手に口上が始まるとおもうけどね。



「「スタンバイ、オトメティカ!」」



 掛け声をきっかけに、私とキキキ、両者の全身が光に包まれる。

 我々魔法少女は、絶対に負けられない戦いの時、魔法少女同士の対決の時、本気モードに、《魔法少女》に、変身するのだ!



「衣装の意匠は千日紅。花言葉は『変わらぬ愛』。本の装丁は夕暮れ。遠くない将来に見るだろう。森田千日紅。どうぞ」



「衣装の意匠は乙女百合。花言葉は『好奇心の芽生え』。本の装丁は羽根。季節外れの渡り鳥の。キュリオシティキルドキャットのキキキ。参る」


やまのたび 見たことないわ オトメユリ 


きっと見ぬまま


死んでいくのね

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