神業だけどその6!!
むむ。
「危篤ねぇ。女郎花領へ出向後に悪化した?いや、相当な高齢だ。世間に隠していただろうが、既に病床の身であったはず。夏都シダレモモは魔法少女同士の決闘で、確かに宣言したのかい?」
これは
「はい。最後の忠臣、だと」
「その主人をほっぽって他国で破壊工作?どうにも怪しいな。自身以上の者は居ないという自負であり、自身以外最早誰も居ないという嘆きだろう。粛清?獣人冒険者に要人でも紛れていたか?」
ああ、これはだめだ。雑味が混じるのは、カフェオレまでは許そう。しかしこれは、ただのコーヒー!
「あなた何者です!師匠を返しなさい!私のミルクだぞ!」
「ミル?返すもなにも、いま私がここにいるのは彼女の意思だよ。そもそも今回のために、彼女は私を討ちに来たのだ。大量虐殺者になる前に私を滅ぼす、のは序での事。私の魂を虜にして、今回の件を判断させるのが一番マシだと視たのだろう。何しろ尾長帝国は、死生観からして人間とは違うからね。私はただのアドバイザーさ。安心したまえエンゴサクのお嬢さん」
「まさか、女郎花の領主様?」
「前領主だよ。人生に《次》があるとは思わなかった。獣人の宗教で葬るとは何だったのか」
千日紅師匠が望んだから?肉体が滅んだ者を、己の意思一つで、その魂を現世に留めることができる?そんなの、人の為せるものではない。それは
「神の奇跡?」
「はははは。私もそう思ったが、間違っても彼女に言ってはいけないよ。きっと嫌な顔をする」
絵本の中の魔法使いだって万能であっても全能じゃない。
死者を甦らせる。それはもう、神話の中の神様が行う御業だ。
「いやすまない。大げさに言い過ぎたお嬢さん。魂を虜にしている、というよりは魂を再現している、という方が正確だろうね。私の記憶を読み取り、私の思考を取り込み、私を模倣しているのだ。彼女が自身の内側で再現しているだけの存在なのだろうね。生前、無知だった私が魔法少女の知識を引き出せているのも、だからだろう」
「それだって、とても魔法の領域じゃない」
模倣、魂の、人の模倣を生み出すなんて。
「魔法はお嬢さんが思っているよりずっと万能だよ。まさに物語の魔女のようにずっとね。ああ、ふむ。本質は未来視でも過去視でもないのか。絵本から飛び出てきた魔女のような、という意味でなく。現実を、一冊の本の様に読み取り、捲り、書き直すことができる、という意味での《物語りの魔女》こそが彼女の正体、なのかもね」
「みらいし?」
「そうだ。大切な弟子に1つ、贈り物をしてあげよう」
小さな手が私に伸び、瞼の上から左目を撫でた。冷たい指。この暖かい季節に。
「これで、正式に君は魔女の弟子だ。魔女たちはね、弟子に魔法の一部を授けられるんだ。契約で魔法少女を生み出す《あれ》のように。覚えておくと良い。ああ、魔女が実在すると知ってしまったこと、魔法を授けたこと、どちらも彼女には内緒だよ?気取られないようにね」
「何故?」
「報いだよ。死者の魂を弄んで、無事で済むわけ無いだろう。どんな物語りでもね」
前領主の魂が、師匠への報復のために私に力を授けた、というならば、私は師匠に報告しなけばならなかった。でも私は、後に正気を取り戻した師匠に、一連の出来事を伝えませんでした。
「必要な事なんだろう?ここに私が存在する理由が彼女なら、ここに私が存在する意味は君だ。ご武運をお嬢さん」




