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オトメチカ  作者: 感 嘆詩
第1章 千日紅
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無級魔法少女と三級魔法少女

 前領主とケモ奈さんが対峙する。血と埃にまみれ膝をつく老騎士と、彼が仕える白装束のお姫様、みたいな絵になる光景だ。

 素敵なので、魔法少女の薄い本(スマートホン)が持つ、捨身権能(しゃしんけんのう)、というアプリ(アップリケの略)でこの光景を保存した。来て良かったな。この土地。



「ケモ奈嬢」


「獅子の獣人なんてしらねぇよ。弾みで殺したからなんだってんだよ。ちょっと頭冷やしてから、俺らに、家族に相談すりゃよかったんだ。寝所で不敬はたらいただの、寝首掻こうとしただの、いくらでもでっちあげられたんだがら」


「嬢は為政者の適性があるね。安心したよ」



 んんん?殺しあったはずの義親子なのに、仲良いな。予想外だ。



「まあ、仲良い分には良いか。無理矢理でも食葬させるつもりだったから、作業がスムーズになる」


「俺に、この人を食えと言うのか」



 んんん?ああ、なるほど。



「ケモ奈さんも、価値観が寄っちゃったのか。こっち来て長いもんね」



 本来の獣人の価値観ならば、ハイエナ葬、ハイエナ獣人による食葬、特に全身を食べる最上位は、余程に徳のある人か、親しい仲でもないと行われない。己の血肉にし、いつか死ぬその時まで、同じ魂の船に乗る。尊敬出来る相手でなければ、とても口に入れられないのだ。

 義理で一口食べることすら、相応の人物である、と保証される行為なのである。


 でも、ケモ奈さんはこちらの、人間の国に慣れすぎてしまった。大切な家族の死体を損壊するなんて、己が勧んで食べるなんて、なんておぞましい、と思ってしまったのだ。



「恨んでくれてた方が、いっそ生きたまま食われる拷問、として納得させられたか。恨んでないのかい?何度も殺されかけたらしいじゃないか」


「そもそも、この人が居なかったらとっくに死んでた。クソガキの頃にな」


「今、殺されかけてた事と、昔救われたことは別だろうに」


「その通りだチカク先生。今、殺されかけてた事と、昔救われたことは別だろう?あの時、救ってくれたのはこの人だ。他の誰でもねぇ」


「ははは。嬉しい、な。君が、男、だった、ら

 、惚れてた、かも、」



 死んだか。



「おやじ殿、お疲れ様でした」



 ケモ奈さんが祈りを捧げる。それはこっち側の宗教だろう。やめてあげなよ。可哀想に。


 いつの間にか前領主様の近習たちが集まってきた。若い人間に混じって、年老いた獣人もちらほらいて、みんなで前領主様の死を悼んでいる。ケモ奈先生と同じように、救って貰った古株たちなのだろう。どう整合性つけて弾圧してたんだろう。前領主も、この人たちも。てか、



「負けとるやないかい獣人冒険者ども」


「当たり前だろ。正規軍だぞ。古参の。練度が違うんだよヒヨコどもとは」



 どっちの味方なのさケモ奈さん。



「まあ、どっちでも良いか。嫌でも、食べて貰うよケモ奈さん。慕っていたなら尚更。前領主様の名誉と改宗の為にもね」


「いま、祭具を運ばせてる」




 後学の為に、行商のおじいちゃんや近習、ボコボコの冒険者たちと共にハイエナ葬を拝見した。

 火とかゴマとか炊いて、匂いを誤魔化しながら、複数の刃物で綺麗にパーツを分けられていく前領主様。

 もとから想定してたのか、切腹くらいは考えていたのか、胃腸の中は殆ど空っぽだった。



「全部食いきれるの?」


「3日かけて食う。早く食べ尽くすほど良いんだが、俺一人だとこれが限界だな」



 ふぅん。大変だね




 葬儀をある程度見学してから、領主城へと侵入する。

 日が沈んだばかりだが、前領主様と激しくやりあった疲れもあってもう眠い。けれど、次の日の朝には新領主にほうほうの体で追い散らされる段取りになってるので今しかないのだ。



 迷って時間つぶしたくないので、採りうる未来を視て、正解を辿る。執務室にて、灯りもつけず、静かにお酒を飲む新領主を見つけた。



黒猫サバトの磔刑便(ウィッチハント)の依頼で来ました。《未来視の魔女》All-round ( 皆殺し)&Undergroundのチカです。趣味は大量虐殺者の予防的殺人です」


「ああ、やはり、君がそうか。あんなもの、ちょっとしたおまじないかと思っていたのに」


「魔女だから、おまじないであってるよ。それと、今回私があなたのお願いを受けたのは、前領主様のことだけじゃないんだ」



 何か、嫌な予感でもしたのか、新領主様の動きが止まる。



「最初あなたかと思っていたけど違った。あなたのお子さんです。二年、いや一年ごとに様子を見にくるね。殺されたくなったら、せいぜい矯正出来ないか頑張ってよ」


「まて、何の話をしている」



 私が視た、この地での《終わった》風景は1つではない。

 1つは、獣人たちを弾圧し、反動で大勢が争い、獣人も人間も死にまくる、血に塗れた虐殺のシーン。

 もう1つは、たった1人が襲い、獣人も人間も殺しまくる、人のあらゆる尊厳が地に堕ちる地獄のシーン。



「何でかしんないけど、あんな末路見といてなんでそうなるのか信じらんないけど、お子さんは、前領主様(お祖父さん)の、悪い意味で後継者になるよ。このまま順調にすくすく育つと」



 今、殺してしまっても構わなかったのだが流石に可哀想だし、何よりもし将来的な虐殺者が矯正できる方法が見つかれば、そのノウハウを教えて欲しいので、数年は見守ろうと考え直した。

 そのノウハウを私に適用するために。


 あの日視た夕日。

 あの、人類救済の為に、虐殺者を予防的に殺す、という大義名分を、

 虐殺者を殺すことで将来《増える》人々から、私を殺せる未来を生み出す、という自作自演を、

 それら全てを忘れてただ、人を殺すことが楽しくて楽しくて仕方なくなってしまった、あの未来の私が見た夕日。

 人生で一番、キラキラして美しいと思ってしまった夕日を。

 現在の私の、薄い本(スマートホン)表紙(待ち受け)になっている夕日を。

 何とかして別の美しいものに変えたいのだ



「猶予はいつまでだ。我が子が虐殺者になるという、その兆しはいつ」


「さあ?確信したら殺すよ。それまでかな、猶予」



 虐殺者になる未来を、回避できなくても別に良いのだ。


 暗殺者魔法少女と対決した乙女ちゃんは、その戦いの最中に《契約の魔道書(薄い本)》の記章(バッジ)が3つ、3階級の魔法少女へとランクアップしていた。戦いの最中に、だ。


 魔法少女は徳が高くなければ階級が途中で止まる。しかし、魔法少女は基本的に暴力を振るう魔法しか使えない。その矛盾の中で、一般的な魔法少女の階級の上限は4。生涯かけて4階級までしか上がれない者が多い。


 たまに、いるのだ。その矛盾の中で、それでも徳を積む者が。それらを、プリンセス階級、絵本の()世界か()ら飛び()出てき()た少女()、《それ》が真に求める魔法少女、と私は呼んでいる。


 薄い本(スマートホン)を見るかぎり、記章(バッジ)は最大で8つ、獲得できる。乙女ちゃんがどこまで辿り着けるかわからないが、プリンセス階級の素質が確実にある。これまでの経験(・・・・・・・)から明らかだ。


 だから新領主様の息子が、前領主様みたいに虐殺者になる未来を、回避できなくても別に良いのだ。


 将来の虐殺者を、未だいたいけな子供を、正義の心を持つ乙女ちゃんを伴って殺害すれば、彼女は怒るだろう。悲しむだろう。失望して、いつか私を殺してくれるだろう。


 そうやって、そんなふうに、将来の禍根をいっぱいつくってきた。将来の虐殺者を矯正する方法が、これまで通り見つからなければ、次善の策として、私を殺してもらうために。


 いつだって私は弱く、私の未来視は弱く、邪悪な私の魔法少女階級は上がらず。最善の策をとれることは少ない。



「せいぜい、頑張ってよ。私も、頑張る。ああ、楽しみだなぁ」 



 子を守ろうとする親の顔。とてもとても美しい。

 夕日ほどじゃないけれど。

花言葉 どおりにいかぬ 千日紅


恋にはちかく


言葉はとおく

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