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オトメチカ  作者: 感 嘆詩
第1章 千日紅
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被害者と調停者

 ガムシャラのスキル・虎口同等(ここどら)は私から相手が見えてるか、相手から鳴き声が聞こえてないと意味がない。


 この領主のお城みたいな、遮蔽物が多くて相手との距離が遠い場所だと撃ち漏らしが怖いので、正面から真面目に攻略することにした。



「引きこもれシンキロー」



 シンキローのスキルを発動する。モヤが辺りを包み、まばたきの間に、目の前に巨大な長方形の建物が出現した。



「し、師匠。これは?」


摩天楼(ビルディング)さ。シンキローに出して貰ったんだ」



 椅子がわりに腰掛けているデカイ貝を撫でる。嬉しそうにパカパカ開閉した。揺れるからやめて。



「兵が目に見えて動揺しているワン……敵も味方もだけど」


「使い魔のスキルじゃニャいわこんなの。これいつまで保つの?次の瞬間には幻のように消える拠点なんて怖くて使えニャいわよ?」


「うん。直ぐ消えちゃうからもう消費するよ」



 挽き潰せ蜃気楼。


 摩天楼は音を立てて倒れ、領主のお城の塀や櫓を砕き、先端は城の天守まで届いた。

 衝撃で摩天楼の窓が割れ、兵士たちに刺さり、血塗れのガラス片は、泡のように直ぐ消えていく。



「ほら、全部消えちゃう前に乗り込むよ」


「目茶苦茶でチュね」


「敵じゃない。敵じゃないんだろうけどウサ。やっぱり危険人物だったじゃないか!!」



 即席の雲梯と化した元・摩天楼をよじ登る。空は快晴。鳥の影がぐるぐると旋回しているのが見えた。さあ、領主様と話し合いの時間だぜ。





「また会いましたね」



 天守内には従者(フットマン)然とした暗殺者(ヒットマン)が待ち構えていた。さっきのダンジョンで出会ったやつだ。生きてたのか。


 暗殺者は懐中からアップリケのついた可愛らしい《魔法少女キャンセラー》を取り出し、そのまま握りつぶした(・・・・・・・・・・)



「スタンバイ、オトメティカ」



 フットマンの服が光の粒に変わり、魔法少女の衣装へと変換されていく。


 なるほど。ダンジョンで未来視がうまく行かなかったのは、()のような暗殺者が良く持つ隠蔽や偽装のアビリティによるものでなく、彼女(・・)が魔法少女だったから。

 逆か。未来視の不発から魔法少女だと気付かれないよう隠蔽、暗殺者に偽装していたのた 。

 魔法少女キャンセラーを持っていたのは、自身の魔法を封じるため。魔法少女同士が対決すれば、自動で特殊な演出が入ってバレるから。


 やられた。魔法少女の決闘では、観客も魔法少女も応援以外の物理干渉が出来ない。時間稼ぎに徹底されると、その間に領主が逃げるか、体勢を建て直した領主軍に囲まれて私以外が全員死ぬ。



「す、スタンバイ!オトメティカ!」



 横から目映い光が放たれる。


 私が決闘を申し込まれる前に素早く決断し、乙女ちゃんが暗殺者へと決闘を申し込んだのだ!



「師匠は、この土地に必要な方です!どうか、ここは私にまかせて先にいってください!」


「無理よ。相手は、ダンジョン(にゃい)で、魔法少女の力を使わずに熟練の獣人冒険者を何人(にゃんにん)も葬った紛れもニャい暗殺者ニャのよ!」



 そうだ。猫獣人キキキの言う通り。いくら乙女ちゃんがバッチを二つも持つ魔法少女とはいえ、もしかして、やがてプリンセス階級へと至るような逸材だったとしても、成り立ての彼女では、魔法少女としても人殺しとしても遥かに格上の暗殺者に勝ち目はない。



「私が少しでも手の内を探ります!そのあとキキキさんが仇をとってください」


「捨身……」



 捨身、犠牲、《博愛》の発露だろうか。

 ああ、いや、いやいやいや、そうだ。本当に彼女がプリンセスならば、


 魔法少女とは、魔法を使う少女のことだ。それだけで圧倒的な存在なのだ。

 熟練の暗殺者だと?魔法少女の力に頼りきれず、別の手管を用いるような弱者だ。キキキだってそうだ。放熱板に偽装して魔法を使う?なんのために?獣人の文化圏で魔法少女になった人なんて、彼女くらいだろう。なのに偽装する。それは、他の魔法少女との対決を想定してのはずだ。チュートリアルでか、実戦でか、彼女たちは魔法を隠す必要があると決め、実践したのだ。



 魔法少女とは、魔法を心底信じていた少女にしかなれないのだ。

 信じることをやめたものたち。その様な邪道に、彼女が王道(プリンセス)ならば、負けるものか。



「外部のあらゆる物理干渉を受けない魔法少女同士の対決でも、応援は届く。キキキ、アドバイスをしてあげて。他のみんなは私と領主を追い詰、問い詰めにいこう」


「事、ここに至っては仕方ニャいこの子の命、預かったニャ!」






「行きましたか。さて、衣装の意匠は枝垂桃。花言葉は『捕虜(とりこ)』。薄い本(スマートホン)表紙(待ち受け)は手と剣。肩を叩くは我が主君。最後の忠臣、夏都(ザナドゥ)シダレモモ。どうぞ」


「衣装の意匠は延胡索。花言葉は『人間嫌い』……う、うぅー、本の装丁は瞳、憧れたあの人の!ヤマエンゴサクの(むすめ)、五月女乙女、参る!」



誰彼に 頭垂れるの シダレモモ 私はひとり 唯一人だけ



「……え、それ、その表紙の青いキラキラ、あの子の瞳なの?」


「そ、そうですが何か」


「いや、こんなキラキラしてないでしょ。もっと泥みたいな」


「青い泥なんて存在するんですか?」


「比喩表現というか、いえ、いいわ。勝負に集中しましょう」


「はい!」


「いいよその調子ニャ!相手はペース崩してるよッ!頑張れ頑張れ!デッカイ方の乙女ちゃん!」


「うーん、厄介な相手かもしれない」


エンゴサクエンゴサク 私の援護も しておくれ


蔓を伸ばして 


毒をそそげ



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