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オトメチカ  作者: 感 嘆詩
第1章 千日紅
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ご鳥葬に付す

花言葉 どおりにいかぬ 千日紅 



恋にはちかく 



言葉はとおく



 魔法がこの世にあるとは知っていた。


冒険者の一部に、不可解な現象を引き起こしモンスターを狩る集団がいることは、ただの町娘でしかない私でも聞いたことのある事実だった。


 だから《それ》が来たとき、あらゆる嘘を、媚びを、同情を使い倒して魔法を手にしたのだ。



「小さかった頃、ご本を読んで貰ったでしょう。《お姫様》の次に、《魔法使いのおばあさん》に憧れていたはずなのに、でも、力を手にしたらみんな《意地悪な継母》になってしまう」



 事が成った後、《それ》が再び私のもとにやってきて、悲しそうにそう言った。



「そもそも、誰も最初から魔法使いのおばあさんにあこがれてなんてなかったよ。お姫様になれないなら、いっそとことん悪に染まりたいと、みんなみんな願ったから、こうなったのさ」



 それに、私は本を読んで貰ったこと何て無い。本が買えない貧しい家でも、そこに温かい家庭があれば物語を(そらん)じるくらいはするのかもしれないが。



「この力を取り返す?」



「それはもう君のものだ。奪えない。でも、それ以上はあげられない(・・・・・・)



 《それ》に力を与えられた者は、何やら《徳》のようなものを集めることで、より大きな力を手にする事が出来るらしい。格付けがあるのだ。商人職人の、徒弟制度による階級のような。私は最初の一段で躓いてしまったが。


 が、まあいい。いいのだ。偉大な魔法使いになりたいわけでも、徳の高い聖人になりたいわけでもないのだ。


 ただ、とても、とてもとても感謝していることだけは《それ》に伝えたかった。


 その気になれば《それ》は私から奪えるはずなのだ。善良な存在ゆえに、ただ良心と倫理によって私からこの力を取り返さないでいてくれているのだ。



「ありがとう。これで、もう充分よ。返せないくらいの恩義を感じているわ。良く言うじゃない。1を100にするよりも、0を1にする方がずっとずっと難しいって」



 感謝しているのだ。私を持たざる者から、1を持つ者にしてくれた。



「私を《魔法少女》にしてくれて、ありがとう」






 今回の依頼は、行商のお爺ちゃんのお手伝い。

 

 今日も荷馬車に揺られ街道を進んでいく。



(のどかで、落ち着くな)



 この田舎道というものは、いつも優しく、私を労ってくれる。


 空は青く澄んでいて、鳥が囀ずり、『ギェェェーー』、羊が鳴き、『メェェー、メェェー、ニンゲンメェェェーッ』、馬車の少し先では旅人たちの談笑も、『モンスターが出たぞぉぉぉ』『ハッハッァ!仕事だぞ野郎どもぉ!』『ヒヒヒヒ!稼ぎ時だなぁ。いや、死に時かぁ!?』『まだ終われないまだ終われないこんなところでまだ私の冒険は始まってすらいないのに……!』


 ドゴォーン!!



(風が気持ちいいな)



 葉っぱが舞って鼻先に落ちてきた。香りを吸い込む。若草と、焦げた肉の香りを。



「落ち着く」


「頭ぁ!大群が、真っ直ぐこっち突っ込んでくるぞ!」


「やはり《積み荷(ブツ)》を嗅ぎ付けて、か」



 うとうとしていると、お馬で駆けてきた従業員さんと、行商のお爺ちゃんが何やらお仕事の話しを始めた。邪魔にならないよう、窓際の席で大人しくしていよう。



「どうやら、雇われ(・・・)や若衆には《荷が重過ぎた》みたいだ。先生、出番です」


「ん」



 行商のお爺ちゃんからお使いを頼まれてしまった。もっとほのぼのしていたかったけど、頼まれたからには仕方ない。



「召喚・蜃気楼」



 魔法を発動しつつ、窓から飛び出す。呼び出した《シンキロー》によって着地の衝撃を無くし、すぐさま上空へ高く跳ねた。視界いっぱい、道の果てまで草原が波打ち輝いている。



「うん。良く見える。召喚・我武者羅」



 荷馬車めがけて走るブタさんの群れへ照準。



「つんざけ ガムシャラ」


 かあ かあ かあ


 と、ガムシャラが鳴くたびに足が止まり、終には、立っているものは誰も居なくなった。



「お見事」


「お見事に御座る」



 お爺ちゃんや従業員さんからの拍手。照れるなぁ。


 ガムシャラによって地上に下ろされ、一礼してから再び荷馬車の中へ。



「お手伝いって、気分の良いものだね」



 独り言を呟いて。またうとうとほのぼのを再開する。次の町ではどうか、殺伐とした《案件》がありませんように、と、神様に祈りながら。




「すごい。あれが、魔法少女……!」

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