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お通夜

 目が覚めたことで、俺は急速に今見ていたはずの夢の記憶が薄れていく。


 ──なんかお掃除の夢だったよな?


「あ、時間!」


 俺は慌ててスマホを確認する。早川のお父さんのお通夜の日だった。時間は幸いなことにまだ少し余裕がある。とはいえ、あんまりのんびりもしていられない。

 俺は慌てて台所へいくと、ほぼノールックで新聞紙を手に取り日課のゲジ退治を済ませ、急いで朝食の準備を始める。この時、俺は急いでいたこともあってクロの姿が見えないことに全く気がついていなかった。


 ◆◇


 ぎくしゃくと香典を受付の人に渡し、ネットで調べたマナーで焼香をあげた俺は早川のところへ挨拶に来ていた。

 早川は学校の女子グループの友人たちと肩を抱き合って泣いている。

 それを少し離れた位置で待っているのは、なかなか居たたまれない。


 なんとなく周囲をうかがっているとなんだか不思議な雰囲気だなと感じる。

 厳粛なのだが、どこか浮わついた気配がするのだ。こっそりとスマホを確認してはヒソヒソと興奮ぎみに数人で話をしている人が多い。


 そうしているうちに、俺の番が来て定型文のお悔やみの挨拶を少し緊張ぎみに告げる。


「──ママ」

「ええ、行ってきていいわよ」

「ユウト、こっち」


 すると早川が俺の手を引いて歩きだす。


「え、いいのか居なくて」

「まだ少し時間あるから」

「──おう」


 手を握られたまま歩く間、俺はなんとなく間が持たなくて、先ほど感じた違和感を告げる。


「はぁ。ユウト知らないの? いまね、各地のスタンピードが次々に終結してるんだ」

「そうなのか?」

「そうだよ! しかも今朝はヨンナナで最もランクの高い紫3ダンジョンのスタンピードの主が討伐されたって。人類の反攻だって、話題、持ちきりだよ?」

「知らなかった……」


 俺は慌ててスマホのニュースを確認すると確かに早川の言う通りのようだった。


 ──不思議だ。俺が寝ちゃう前にクロに伝えた願いがまるで叶ったみたいだ。単なる偶然なんだろうけど。


「もう、ユウトったら。──笑わせないでよね」


 そう言いながら、笑みを浮かべる早川。

 その目尻から一雫こぼれでた涙を、空いている方の手の指先でそっとぬぐう。


「すまん」

「ううん。──ありがと」


 なぜかお礼を言われる。

 そして俺の手をぱっと離すと、くるりと背を向ける早川。


「……戻ろっか」

「え? ああ」


 それだけ告げて早川は会場の方へと歩きだす。

 その肩からはいつの間にか少しだけ力が抜けていて、いつもの早川のように俺には見えた。

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