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お茶のお誘い

 ドアの前に立つその姿は、正に満身創痍と呼ぶのが相応しい惨状だった。

 二本あった杖は片方は完全に折れ、もう片方の杖もヒビだらけだ。


「やれやれ。紫級、ダンジョンの宝物、なんだが、の。ごふっ」


 内臓の損傷による吐血。それを拭う手も、指が数本真っ黒に変色し腫れ上がっている。


 しかし、それでも、目黒=バーミリオン=りん子は生きて、そして到達していた。

 玄関ドアの前へと。


 ここへと至ることが出来うる存在は、彼女を含めて人類でも数人であったであろう。この時、この場に彼女がいたことの奇跡を、後世の人類史を編纂するものは感謝することとなる。


 バーミリオンことばっちゃんは呼吸を整えると、まだ動かせる指を使って、チャイムを鳴らす。


 その背後、数メートル先にはブンブンと騒がしく羽音を響かせる蚊柱。裏をかかれ、獲物が生きて逃れた事を怒り狂っているかのようだ。しかし、それだけだ。

 蚊柱は、玄関前へは全く近寄る気配を見せない。


 その時だった。がちゃりとドアが開く。

 顔を覗かせるオボロ。


「なにようか」

「隣に住まう目黒詠唱の祖母、目黒=バーミリオン=りん子と申すものですじゃ。いつも孫がユウトさんのお世話になっておりましての。お礼をお伝えしたく、うかがわせて頂きました次第ですじゃ。どうですかな。親睦を深めるのに粗茶を一服、ご用意させて頂いておりましての」


 じっと考え込む様子を見せるオボロ。


 ばっちゃんは内心の緊張を一切表に見せることなく、端然とした様子でオボロの返答をまつ。

 目の前にいるのは、一つ機嫌を損ねれば、自身の命などろうそくの火のようにあっという間に消し飛ばしてくる相手。


「……それはご丁寧に。我はオボロと申すもの。御主人殿はただいまお眠りだ。代わりにご招待に預かろう──ふん、庭が騒がしい。少し失礼してよろしいか」


 うるさい蚊柱の羽音に顔をしかめるオボロ。


「もちろんですじゃ」


 ほっとした素振りなど、ちらりとも見せず、ドアの脇へとばっちゃんが避ける。その横をすり抜けるようにして、オボロが庭へと進んでいく。


 それだけで、庭をうごめくモンスターたちが萎縮したように身動きをとめ、地に伏せ、身を固めていく。


 オボロは、そんなモンスターたちの反応を気にした風もなく、烏の濡れ羽色の袴から伸びた足を持ち上げる。そして一息で、足を大地へと踏み下ろす。


 大地が、鳴動する。


 それは空気へとも伝播し、振動が、庭全体を覆う。


 それを二度。そしてまた二度、繰り返すオボロ。


 それをじっと見つめるばっちゃん。その瞳は未だにバーミリオン──朱に染まっている。


 ──なんとも恐ろしい。固有振動数による破砕、かの? モンスター相手にそんなことをすることが可能とはの……


 さすがの事態に、全くの無表情になってしまうばっちゃん。その視線のさきでは、あれほど騒いでいたモンスターたちが、次々にバラバラと崩れ落ちるように粉砕されていっていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 割と傲慢な存在だったオボロが、バーちゃんには礼儀正しく振る舞うの割と笑いますw 意外と可愛いところあるなーw
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