眼の御方
「どうです? ばっちゃん」
「そら恐ろしいの。ぱっと見ですら半神半妖かと思ったぞい」
ダンジョン公社支部を訪れたユウトをドアの隙間からそっと覗く二つの影。一人は目黒だ。
その隣に佇む目黒より一回り小柄な老齢の女性。年齢は離れているが、二人にはどこか似た雰囲気がある。
「そんなに、です……」
「ああ。詠唱ちゃんのサードアイじゃ、まだそこまで見えないかい」
「職場じゃ下の名前で呼ばないでほしいです……」
「なんじゃなんじゃ。かわいい名前じゃろうに」
「もうっ! です」
甘えるようにぷくっとほほを膨らませる目黒。それだけで二人の仲のよさが伝わってくるようだ。ユウトからの質問に対応していた緑川と加藤がそんな二人のもとへとやってくる。
「それで、眼の御方。いかが見ましたか?」
緑川が目黒の祖母へと尋ねる。
「ああ、縁のところの末娘さんか。そんな大層な呼び名は無しにしようじゃないか。ばっちゃんでよいさね」
「恐れ入ります。では私のことも円と」
名字で呼び合うには互いの氏族に知り合いが多い二人。とはいえ孫の職場で、氏族内の号で呼ぶのを控えるように提案したのは、緑川が色氏族がてらに探索者となり、氏族内で立場が微妙なことを配慮したのだろう。
「ありあから聞いたがね。聞きたいのは、オボロっちゅう人格のことさね? まどかちゃんのハードラックは彼に反応したかね?」
「っ! 未熟で恐縮ですが、まったくなんです。これまでのユウト君と変わりませんでした」
ふむふむとうなずく目黒の祖母。逆に緑川はしきりに恐縮しているのか少し猫背ぎみだ。
色氏族の中でも力を保持している一族の長に近い位置にいる存在。緑川の態度も仕方ないものと言える。
「わしの見立てでは異界の者ではないように見えるの。とはいえ、断言するには実際にパクックマ仮面になったときを見ないとじゃな」
SNSのトレンドにのっていたワードを口にする目黒の祖母。ネットにも詳しそうだ。
「それで提案なんじゃがの──」
楽しそうに笑いながら小声で続ける目黒の祖母。緑川たちは顔を寄せてじっとその提案に聞き入っていた。