side 緑川 5
「終わった……。こちらコードグリーン。黒き黒の無事の帰宅を確認。」
私はユウトが無事に家にたどり着くのを遠距離から確認していた。既に見た目は元に戻っていた。化粧ベースのアーティファクトらしく、化粧落としでしっかりと落ちて、見た目は元に戻るのだ
「こちらコードワン。グリーン、ご苦労だった。グリーンの頑張りで、今日も世界は滅びずにすんだ」
課長からの労り。
私は、特注品の双眼鏡をしまうと、ダンジョン公社支部へと向かう。
──ああ、帰ったら報告書の作成だ。でも目黒と加藤先輩は今頃本社で、確保した教団関係者たちの聴取、かな。残業お疲れ様です。
ドアを開ける音で気がついたのだろう。ヴァイスがひょっと、廊下の角から顔を出してこちらを見ている。
「ああ、ヴァイスー。良い子にしてたかな」
私の声にとことこ歩いて近づいて来るヴァイス。お鼻がヒクヒクしている。
「うう、がまん。がまんよ、緑川。歴史ある色氏名の末裔の一人として、ここが正念場……」
思わず伸ばして抱き上げようとした所で、バッと両手を上に掲げる緑川。
その急な動作にビクッとして立ち止まるヴァイス。
「ああ! ごめんねヴァイス。急に動いてビックリしちゃったよね」
「ゴロゴロゴロ」
私が謝ると、その場で喉を鳴らしながらお腹を見せてくれるヴァイス。どうやら撫でてほしいようだ。
──な、なんという甘美な誘惑。ああ、思わず手が出ちゃう。
ふらふらとしたところで、ハッと気がつく。
今自分が何をしようとしていたかを。
「ごめんねヴァイス」
「な~」
再び私が謝ると、腹を見せるのをやめてスタスタとヴァイスが立ち去っていく。
「ああ、ごめん、そんなつもりじゃないんだよ……」
玄関で思わず座り込んでしまう。
そこにヴァイスが戻ってくる。
「ヴァイス!」
「な~な~」
その口には真っ白な猫のぬいぐるみ。ヴァイスの玩具ように買ったものだ。
「な~」
「え、もしかして貸してくれるの?」
「なー」
「ありがとう。はぁ、ありがとうヴァイス」
私はヴァイスに触れられない分まで取り返すかのように、真っ白な猫のぬいぐるみをぎゅっと抱き締めるのだった。