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噂話

「おはよ、ユウト」

「おう。早川もおはよう」

「なんか機嫌良さそう。良いことでもあった?」


 机の横にたって、覗きこむようにして俺の顔を見ながら、早川が話しかけてく。


「うん、そうかな。最近ちょっと新しい趣味にはまってさ」


 いつもの朝。教室で早川とかわす、とりとめのない雑談だ。


「お、いいね。どんな趣味?」

「──笑うなよ」

「笑わないって」

「その、ハンドメイドみたいなものをしててさ。いや、本当に簡単なものなんだが」

「へぇ。笑わないけど、意外かも」

「ちょっと押し花で、しおりをつくる機会があってさ。それが思いの外面白かったんだわ。……だから笑うなって」


 笑い声は出ていないが、めちゃくちゃ笑顔でこちらを見ている早川。


「え、ああ。ごめんごめん。なんか微笑ましいなって」


 自分でも笑顔を浮かべていたことに気づいていなかった様子だ。


「たく……」

「だからごめんって。あ、そうだ今日お弁当ちょっと作りすぎちゃったんだ。お詫びに余った分あげるからさ。一緒にお昼、食べよう?」

「──食べる」


 重々しく頷いて、俺は早川の謝罪を受ける。食べ物の誘惑の前には、俺の趣味が笑われたなんて、些細なことだ。


 授業の開始を告げるチャイムが鳴った。


 ◇◆


「はいこれ」


 二つあるお弁当箱の大きい方を手渡してくる早川。


「いただきます」


 俺がお弁当箱の蓋を開けると、肉を中心に、彩り華やかなおかずが、詰められていた。


「すごいな。いいのかこれ。本当にもらっちゃって」

「いいのいいの」

「じゃあ、ありがたく」


 俺はさっそく箸をつける。


「相変わらずうまいな」

「うん」


 食べながら、俺は早川とまた、とりとめのない話をする。赤8ダンジョンの跡地への大学の誘致は順調らしい。俺たちが受験するタイミングに間に合いそうだと、早川は父親から聞いたそうだ。


 ──あー。なかなかインパクトがあったな。早川の親御さん。


 かわりに俺は、隣の家の緑川さんが白い子猫を飼い始めた話をする。名前はヴァイスとつけたらしい。


 一度見せてもらったが、ずっと緑川さんの腕のなかでゴロゴロしていて、とても可愛らしかった。俺が近づくと、そのアメジスト色の瞳でじっとこちらを見ていた。


 ──大人しい感じの子猫だったな


 早川からもらったお弁当を食べ終わり、自分で作った方に取りかかろうとしたところで、早川がぽつりと呟く。


「そういえばさ、ユウト。ネットの噂なんだけど。──『黒き黒』って、聞いたことある?」


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― 新着の感想 ―
[一言] その噂は教えてはいけない(゜ー゜)(。_。)ウンウン 拉致られるぞ(笑)
[一言] ユウトが子猫を撫でたら溜まってる不幸パワーそのものが浄化というか吹っ飛びそう
[一言] 早川さん、下の名前で呼ぶ日はいつ来るんだろう… あと、栞。渡すのかなぁ… 御自宅への招待いつするんだろう… 他にもフラグ沢山立っているけど、回収がなかなか追いつかない印象が強くて。。。 …
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