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side タロマロ 2

「お、カイカイ。お前も呼ばれたか」

「タロマロさん! この間ぶりっす。なんなんですかこれ。すげーメンバーばっかりなんすけど」


 辺りを窺いながら話しかけてくるカイカイ。なぜか俺に対してだけは、いつもこんな口調だ。


 俺たちが今、押し込められている狭い会議室には国内にいるランカー探索者がほとんど集められているようだった。その数、およそ百。


「黒案件さ。聞いたろ?」

「ラチられる時に、聞きましたっすけど」

「そういうことさ」

「あー。タロマロさん! 教えてっすよ」


 その時だった。ガヤガヤとした会議室で、他を圧倒するようにして声が響く。


「定刻だ。ブリーフィングを開始する。ダンジョン公社課長の双竜寺だ。まず始めに感謝を伝えたい。短時間でよくぞ集まってくれた」


 双竜寺が部屋の前方のモニターの前まできて、話し始めたのだ。


「今回の作戦は藍級通常個体モンスターの掃討。総敵数予想は300以上。期限はあと三時間だ。今作戦の失敗は、我が国の国体を揺るがす事態に繋がる可能性が高い。そしてこれが対象の画像だ」


 ざわついていた会議室がその一枚の画像で、しんっと静寂に包まれる。


 そのモンスターが、あまりにも彼らの常識とかけ離れていたのだ。

 物理的な強さとは、基本的に大きさに比例する。逆に言えば、小さくても生命として生存に強い個体は、何か特殊な部分があるのだ。

 それは毒であったり、寄生能力であったりと、実にさまざまだろう。


 そして今、双竜寺が、脅威度藍級と言っていたモンスターは一見、普通のナメクジだった。


「課長さん課長さん。質問です。普通のナメクジサイズで、しかも一体で藍級なのですか?」

「そうだ」


 ビシッと律儀に右手を挙げた探索者からの質問に答える双竜寺。


 ──あれはランカー3位の寄留(きりゅう)=グスダボ=久遠(くおん)か。あいつ、相変わらずわかって質問してるな。厄介な


 双竜寺の返答によって、室内に緊張が走る。再びざわめきはじめる探索者たち。

 ただ、動揺を見せているのはランカーの中でも低位のものたちだ。


「おいおい。俺は降りるぞ」「こんなん倒せるかよ」


 彼らは、口々に言い募ると席から立ち上がり帰ろうとする。


「お前ら、席につけ!」


 俺は思わず声をあらげてしまう。このままでは、帰ろうとする方が、不利益になってしまうからだ。


 そこに、双竜寺の静かな声が、喧騒を切り裂く。


「タロマロ、ありがとう。さて今件は、黒案件事案だ。現時点での離反はダンジョン特措法違反として、資産の没収及び探索者資格の剥奪もあり得る。その覚悟のあるものだけが立ち去りたまえ」

「まあまあ、課長さん。そんなに気張らんといていいんじゃないっすか」


 軽薄な感じで双竜寺に話しかけるのは、今ごろふらっと会議室に入ってきた探索者。


「タロマロさん、あれ、ランカー1位の……」

「ああ。探索者チーム『千手観音』の孔雀蛇(くじゃくだ)乱子(らんこ)だ。こういう表舞台に顔を出すのは、数年ぶりじゃないか」


 思わず俺はカイカイとひそひそ噂話をしてしまう。その間に、帰りかけていた探索者たちが自席に戻っていく。

 孔雀蛇の軽薄さに反して、ランカー1位としての言葉には、やはり場の雰囲気を変える何かがあるようだ。


「遅刻だ。席についてくれたまえ。孔雀蛇」

「お堅いねー。そんなんだとすぐに禿げますよ」

「……ではブリーフィングを続ける」


 孔雀蛇の茶々を、軽くスルーする双竜寺。知り合いのような気安い雰囲気がそこはかとなくする。ふっとそこで孔雀蛇の姿が消える。


 俺は急いで周囲を確認する。

 いつの間にか俺の後ろ、部屋の最後尾の端の席に、孔雀蛇が座っていた。


 ──全然、見えなかったぜ。まったく。ランカー1位は伊達じゃない、か。


 こうして問題は山積しながらも、史上最大のナメクジ掃討作戦が、始まろうとしていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い
[一言] 現実に存在するナメクジでもヤベエ寄生虫(広東住血線虫)持ってる奴がいて、直接触るどころか這った跡の粘液に触れるのでもダメな奴がいるからな……モンスターなら尚のことやべえんのがいるんじゃねえか…
[一言] ユウトの家の塩で弱体化しないのか…
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