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成長

 隣の家の深夜の会議から一時間と少しあと。変なあだ名が増えたことなど全く知らないユウトは、いつものように四時半に起きていた。


「うーん。蜂の心配がないというだけで清々しい朝な気がする。おはよう、クロ」

「おはようございます。ユウト」

「あれ、クロ。何か変わった──訳ないか。うーん、お弁当の準備を始めるか」


 台所へ行くとユウトは流れるような動きで新聞紙ソードを手に取り、あくびをしながら振り下ろす。

 追加の打撃を加えようとしたところで、ピタリと手の動きを止めるユウト。


 見ると、いつもの床をはい回る「それ」が見事に粉砕されていた。


「あれ? 一撃で潰せた。初めてだわ。もしかして俺、成長している? ゆくゆくは新聞紙ソードマスターとして、害虫ハンター専門探索者に成れちゃったり……いや、あまりなりたくないな。何で仕事にしてまで、好きこのんで虫と接しないといけないんだって、話だよな」


 独り言だと思って、そんな下らないことを呟いているユウト。台所の入り口から、クロがじっとそんなユウトの様子を撮影している。


 限定会員向けの動画配信の素材を集めているのだ。


「そういえばそろそろ提出期限だよな、()()調()()。返信来てるかな」


 お弁当用に卵焼きを焼きながら器用にスマホを操作するユウト。

 父親の捺印が必要なので、PDF化してメールしたのだ。もちろん担任の許可は取ってある。


「お、来てる来てる。いつもながらに素っ気ないメールだ。まったく。どこにいるかぐらい、一言添えればいいのに。──あっ」


 ついついスマホに気をとられている間に、気がつけば少し卵焼きが焦げていた。


「不覚。まあ食べられるだろ」


 気にしないことにして、お弁当箱に詰めていくユウト。育ち盛り特有のぎゅうぎゅうに詰め込まれた弁当箱だ。

 ずっしりとしたそれを鞄にしまうとそのままお弁当の残りで朝食にする。


「うーん。香ばしい」


 手早く掻き込むようにして朝食を済ませると、ユウトは出発の準備を始める。

 クロも撮影を終了させると、音声つきで今撮影したばかりの動画を高速で編集し、限定配信にアップする。

 有料化したこともあり、クロは律儀に動画配信を行っているのだった。


 そして今回配信された動画。その中の『黒き黒の進路調査』というワードに、一部界隈がざわつくのだった


 ◇◆


 家を出発してすぐ、ユウトは緑川と道で出会う。


「あれ、珍しいですね」

「ああ。ユウト君。おはよう。毎日こんな時間に学校に行っているの。偉いわね」

「もう、慣れましたよ。緑川さんは、こんな朝早くに、どうされたんですか」

「いやー。寝れなくて……。少し散歩をね」

「あー。そうなんですね」


 ユウトは、こんな山奥にスローライフしに来る人にも色々あるんだなと、今の緑川の話を聞いて内心思っていた。


「そうだ、ユウト君。ユウト君って進路──」

「あ、時間が。もう行かないと! それじゃあ、緑川さん。またっ」


 時間を確認して、ユウトは慌てたように自転車を漕ぎ出す。取り残される緑川。


「あ──。はぁ。不運の前借りをしてない私なんて、こんなものよね」


 がっくりと項垂れた緑川が、家に帰っていく。まだしばらく眠れない緑川であった。




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― 新着の感想 ―
進学>上京>故郷滅亡?
ユウトの出力を完全に管理してるナニカが憑いているのかな
[一言] 大学に行くんじゃないかな…………普通に(笑)
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