最後に済ませておくこと
「召命により、馳せ参じた」
その凛とした声が響く加藤さんのスペースは、全てが白かった。
その真っ白な空間は、膨大な力をボタボタと垂れ流し始めてしまった俺を取り込んですら、空間断裂を今のところは生じさせていない。
それほどに、しっかりとした空間だった。
──良かった。俺の溢れだした力だけでも、世界が混乱し始めていた匂いがしはじめてたからな。はた迷惑極まりないことに。ここなら、ひとまずは安心だ。
そこには、俺と因果律、クロと加藤さん。そしてイサイサだったもの。
そしてそれ以外にも、沢山の存在がいた。
それらはみな、俺に縁のあるものたちだった。
その先頭に立つオボロさんが、先ほどの台詞を口にして、さっと片膝をつく。
俺はオボロさんに軽く頷き返すと、その横に控える、あだむといぶを見る。
どうにも、残り時間が少ない。
俺が今の状態で口にできる言葉の数すらも、限られているのが自覚できる。
その貴重な数語を費やして、俺はあだむといぶに告げる。とても大切なことだから。
「あだむ、いぶ。イサイサ、を、丁重に葬って、くれ。彼女は見事な働き、だった」
「ははっ」「たしかに承りました」
さっと、いぶが身を翻し、血筋的には自分の孫の一人に当たるイサイサだった亡骸に近寄る。いぶは、そっとその亡骸を掬い上げてくれる。
それを視界の隅にとらえて、俺はほっと安堵する。
いぶなら、姉のことを適切に葬ってくれるだろうと安心できる。
「刀、wぉ」
「はっ」
俺の言葉が、もうすでに、形にならない。
それでも俺の意思を汲んでくれたオボロさんが一振りの刀を両手に捧げ持ち、俺のすぐ近くまで、にじり寄ってくる。
近づくオボロさんのその顔からは、滝のように汗が流れ、全身が痙攣するように震えている。
俺から溢れ出ている力に当てられているのだろう。
ただ、その玲瓏な顔だけは、ひたすらに厳粛な表情を維持している。
オボロさんはたぶん、意思の力だけでそれをしているようだった。
申し訳ない気もするが、残念ながらもう、俺には抑えきれないのだ。
力が。
あふれでた力は、すでにユシの体から、四肢という五概念を取り除いてしまっていた。
俺は、オボロさんの捧げ持つ刀を取ろうと手を伸ばした。そのはずが、いつの間にか新しい三本目の腕が背中から生えていて、その新しい腕がオボロさんより捧げられた刀を受け取っていたのだ。
俺の真っ黒な、闇そのものといった風情の新しい腕が、かつて新聞紙ソードだった刀に触れた瞬間、力の共振が起きる。
クロとオボロを経たそれは、おれ自身の力と、波長がずれていたらしい。
共振した力が、不思議なことに音楽を奏で始める。
響いた音が、スペースを埋めつくし、その場に立ち会った俺と縁を持つものたちがみな、微妙な顔をし始める。
何かを必死に耐えているかのような、しかし耐えきれない何かが溢れ出そうとしているかのような、変な顔だ。
しかし俺の興味はすでに手の中の刀と、腑分を要する、手の中の神へと完全に移っていた。
溢れ出た力と、さらに追加で沸き上がる力を、刀へと次々に注ぎ込んでいく。すると、俺の意思に従って刀が細く小さくなり、そしてその刃の鋭さが増していく。
まるで手術用のメスのように変化した刀を、俺はそっと目黒さんの体に埋め込まれたクロのワケミタマドローンのボディへと滑り込ませていった。




