戦闘開始
俺は新たに獲得したスキルを見ながら困惑していた。
──せ、扇動って……。一言というか、ちょっと声を出しただけなんだけど。それでこんなスキルを獲得しちゃうのか……
思わず、俺はごくりと喉を鳴らしてしまう。
その間にも、コボルド達からの熱い視線は変わらず。じっと俺に向かってきていた。
──これ、どうしよう……
俺がそんな困惑に襲われている時だった。
急に空気に悪臭が混ざる。
月明かりで遠くのは見えないのだが、その分、コボルドとしての鼻が教えてくれる。
俺の隣でごろんとお腹を見せている、いぶがその身を持って教えてくれたコボルドとしての鼻の使い方だ。
──敵? この臭いは……確か大穴ダンジョンの下、雪のフィールドで嗅いだことあるな。
次の瞬間だった。遠くで何かが爆発するような音とともに、何かが吹き出す。
月明かりに浮かぶそれは、白っぽい肉の塊に見える。それが大量に噴き上がり、宙を舞う。
よく見ると、短いが手足がある。
──この距離であのサイズ……大きい、赤ん坊?
「あだむ、いぶ。あれ」
俺はあれは何だと思うと、左右にいたあだむといぶに尋ねようとした。
しかし、それは途中で途切れてしまう。
敵の悪臭に混じるように、嗅ぎ覚えのある存在の臭いをいくつか、俺の鼻が捉えたのだ。
──これは、イサイサ? ドーバーナとメラニーも一緒か。
ここまでは良かったのだ。
問題はその次だった。
──え、加藤さん? それに、オボロ? 何でゲームであの二人の臭いが、するんだ……?
混乱のあまり、あだむたちへの質問が尻切れとんぼとなる。
そしてそれは、意図せずして新たに獲得したスキルによって増幅され補完されていく。
気がつけばあだむといぶが叫んでいた。
「偉大なるお方。我らが主にして真に黒きお方よりの下知なり!」
「全軍、状況を開始だ! 偉大なるお方のお目を汚すかの敵を討ち滅ぼせ!」
まるで、俺が攻撃を指示したかのように、コボルドたちか雄叫びを一つあげ、動き出す。
巨大赤ん坊を打ち倒さんと、大地を埋めるコボルドたちの進軍が開始されたのだった。