狭間の先で
「お、手応えが変わったぞ、そろそろ出る」
イサイサにぎゅっと抱きつかれた加藤。その手にもつ短槍の先では、ユニークスキルと七武器の特性の光がまるで渦を巻いているかのようだ。
その光の渦が、崩落した大穴ダンジョンの狭間を拡大させていく。
そうやって、時と空間を穿つ短槍によって狭間だった場所は通路へと復元され、槍を持つ加藤と抱きつくイサイサを先頭に、オボロ、メラニー、ドーバーナの順で歩いて来ていたのだ。
そんな加藤が手応えが変わったことを告げた次の瞬間、五人は開けた空間に出ていた。
「大穴ダンジョンは崩落したはずだよな。なんでこんな大きな空間が残っているんだ?」
加藤の疑問に、クンクンと鼻をならすイサイサたちコボルド三人。
「ダンジョンとして、再生されている」
意外にも三人の中で加藤の疑問に答えたのはメラニーだった。
「ダンジョン、だって?」
「因果律の悪臭がプンプンしますわね」
「やっぱり因果律なのか」
メラニーに続いて、ドーバーナも鼻にシワを寄せて告げる。その発言に天を仰ぐ加藤。
「加藤、私の博愛は満足した? ちょっと離れるけど寂しくて泣かないでね」
「泣くかよっ!」
イサイサがぴょんっと離れる。
その時にはイサイサの両耳の七武器はすでに元のサイズを取り戻し、警戒するかのようにゆらゆらとイサイサの頭の左右で揺れている。
「オボロ様、どうしますか?」
ドーバーナの指差す先。広場の奥に、巨大な影があるのが、加藤にも見えてくる。
「当然、殲滅だな。ユウト様に楯突き、あまつさえユウト様の一撃を逃れて、のうのうと反攻してくる神の配下だ。捨て置く訳にはいくまいて。それに目黒詠唱の居場所はこの先だろうよ」
ゆらりと刀を抜き放つオボロ。
メラニーたちコボルド三人にも異論は無いようだった。
加藤も、好戦的な女性陣を見てため息をつきながらも短槍を構える。
そんな五人に向かっていた、部屋の奥にいた因果律の配下たる魂の簒奪者──人の何倍もの大きさのある、巨大な人間の赤ん坊が、ハイハイで突進してきたのだった。