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もうひとつの色氏名

 早川の目の前にあるのは、ユウトの家で見たのと、同じに見える機材。

 早川はそれを見たことがあるだけでなく、ユウトの家でかぶったこともあった。


「早川姫さん。こんな夜分にお伺いしてしまって、本当にごめんなさいね」


 その機材を持ってきた女性は、前に花鳥風月の授与式をユウトと一緒に見に行った際に会ったことのある人物だった。


「白羅ゆりさん、うちの娘が何か色氏名の方のお手を煩わせるようなことをしでかしたのでしょうか」


 早川にピタリと寄り添い、慇懃ながらも断固とした様子で白羅ゆりへと話しかける早川の母。

 いざとなれば自らの身を呈して娘を守ろうという意気込みが滲む。その背に娘のことを隠せるように、ピンと張りつめた緊張感が漂う。


「ご心配、ごもっともです。私もこのような時間に、未成年の娘さんをお訪ねするのは誠に忸怩たる思いを抱いております。早川さんは私がユニークスキルホルダーということはご存知でしょうか」

「もちろんです。色氏名の御筆頭にて、ミスヒアリングのユニークスキルをお持ちになられていることも。空耳を現実のものとするお力だということも存じています」

「え、ママ? なんで……」

「しっ」


 そっと早川姫の肩にそえた手に力を入れる早川の母。不用意な発現をしないようにという、無言の思いはそれだけでしっかりと早川へと伝わる。


「さすが色氏名三位とされる灰川家。子女教育はしっかりとしていらっしゃるようですね」

「──それはもう、すでに出た家です。今の私は単なる早川」

「それでも、そこまでご存知でしたら、色氏名と餓沙羅の系譜の悲願は身近でしょう?」

「そんなっ!いにしえの確執に、私の娘を巻き込むおつもりですか!」


 一気に語気鋭くなる早川母。その姿は普段の優しさは鳴りを潜め、ただただ、威厳あるものだった。

 早川はそんな母の初めてみる様子に思わず困惑してしまう。


「うーん。巻き込まれているのはどちらかと言えば我々の方ではありますね。なんにしても、真実を告げ、私は自らのなすべきことをするのみ。選択はもう、私の手にはありません」


 早川母の語気をやんわりとかわして、穏やかに告げる白羅ゆり。

 その視線はまっすぐに早川へと向かっていた。


「姫、聞かなくていいです!」


 それを阻止しようとする早川母。しかし、早川はそんな母を制止して、白羅ゆりへと問う。


「──ママ、まって。白羅さん、それはユウトとのこと、ですか?」

「そうです。早川姫さん。あなたが、あなただけが、彼を一人の人間として手を差しのべられる。これはその手助けとなるはずです」


 そういって、ユウトの家にあったダンジョン&キングダムのフルダイブ装置と瓜二つの機器を、白羅ゆりは早川姫へと差し出すのだった。

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