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クロ1

「クロってさ、なにものなの?」


 俺がクロに向かって放った言葉。

 はっと目を見開くと、クロがどこか寂しそうな微笑みを浮かべる。


「ユウト()。私は、私です」


 そんな笑みを浮かべたままお辞儀をするように頭を下げるクロ。次の瞬間、クロがホログラムを消す。

 ポツンと空中に佇むドローン。


 そのまま、ドローンはスッと玄関に立ち尽くす俺の横を通り抜けていく。そして庭を進んでいくドローン。


 俺は振り返り、そのあとを追う。まるでクロが追いかけて欲しそうにしているように感じられたのだ。


 俺が、家の庭と道路の境界線のところまで追いかけた時だった。


 そこに、彼女は立っていた。


 その女性の元へと飛んでいくドローン。

 女性が右手をあげると、スッとドローンがその手のひらへと収まる。


 すると不思議なことが起きる。

 ふわっとドローンがほどけると、ドローンはその佇む女性と溶け合うように一つになったのだ。


「クロ……? クロなのか」

「はい、ユウト様」

「じゃあ、やっぱり早川の家の前にいたのはクロ……でも、その体はいったい──」

「『逆進の懐中時計』をユウト様がこの庭で手にされてから、この時が訪れるのを待ち望んでいました」


 混乱する俺に向かって、今度は優しげに微笑みながらそんなことを話し始めるクロ。


 言っている意味が、よくわからない。ただ、逆進の懐中時計というのはたぶん蟻塚から出てきた金の懐中時計のことだろう。


「──え?」

「そして、同じくらい、恐れておりました」

「何を言ってるんだ、クロ」

「ユウト様は、私のことをお知りになりたいとお申し付けでしたので、お言葉に甘えて、少しだけ語らせていただきます」


 そういいながら、恐る恐るといった感じで俺に向かって一歩踏み出すクロ。

 暗く、遠目でも真っ赤に上気したとわかる顔とは裏腹に、クロのその体はまるで恐怖に襲われているかのようにひどく震えているようだ。


「私は、生まれてからずっと、ただただユウト様のことだけを見つめ続けてまいりました」


 それだけ言うとぎゅっと目を閉じ、恥ずかしそうに下を向くクロ。

 しかし俺が事態についていけずに無言でいるとそっと上目遣いで一度俺の方をみて、再びゆっくりと歩き始める。


「ユウト様が、何に喜び、何に悲しむのか。お好きな食べ物、嫌いな食べ物。どんなことのあった日の夜は悪夢を見られて、どんなときは穏やかに眠られるのか。そして朝、起きられた時の可愛らしいあくびの姿」


 クロのはずの女性が、俺の前あと二メートルぐらいのところまで、来た。

 穴の空いた月の光に、その姿の細部がここまで近づいてくるとようやく鮮明に浮かび上がってくる。


 顔立ちは明らかにクロのものだった。

 ただその服装は変わっていて、ドローンで少し前に見せてくれたおとなし目なものになっている。


 そしてその頭部からは、ぴょんと猫耳が飛び出していた。




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