推測と行方
「結論から言えば、因果律の本体は健在、ということなのでしょう」
「クソッ、やはりか。ユウト様のお力を持ってしても、さすがに一撃では根絶は出来ていなかったのか」
「その身のいくばくかは削りとれたのでは、とは思います。しかし本体はほぼ無傷なのではないかと」
クロとオボロは、互いに理解したかのように話を続ける。
しかし加藤はそんな二人の様子をボカンと見るばかりだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれないか、クロさんにオボロさん。それじゃあ、俺には何がなんだかさっぱりで──」
理解の悪い、かわいそうなものを見る視線を加藤に向けるクロとオボロ。
しかし今のクロはため息を一つついただけで加藤にもわかるように説明をしてくれるようだった。
「現在、各地でダンジョンの消失が発生していますよね。あれは因果律が力を回収しているためと推測できます」
「ちょっ、ちょっとまった。それだと因果律がまるでダンジョンを生み出したみたいじゃないか」
「そうですが?」
絶句する加藤。
クロはそこにはフォローをせずに話を続ける。
「ダンジョンの回収は、明らかに虹の地平に生まれた、ユウト様の支配領域への攻撃強化のためでしょう。ユウト様が月を穿つ原因となったテラトータス等がそれですね。他国で先にダンジョンの消失が生じていたのは、因果律の手の者が多いからだと思われます。一例をあげるなら、前にユウト様に手出しをしていたハローフューチャーの一派、等ですね。そしてここからは推測に推測を重ねたものですが、目黒詠唱か目黒詠唱を操るものが、今回の一連の騒動の中心にいると、私は考えています」
絶句したままの加藤に、とうとうと自説を告げるクロ。
オボロもそれをウンウンと頷いてきいている。
「え、でも待ってくれ。目黒の持っているクロコのボディは、進化律って神の力が宿ってるって、クロさん言ってなかったか?」
「あら、加藤にしては良い質問だな」
「オボロさんまでそういうことを……」
恨めしそうに、にやにやしているオボロを見る加藤。
「そこのところは今のところ私にもわかりません。状況証拠と目黒詠唱の行動からの推測で話しているだけですので」
クロも、その加藤の疑問に答えられないようだ。
「──わかったよ。よくわからない部分も多いが、俺もクロさんの意見に反対はない。ということは結局目黒の行方については、振り出しに戻る感じか」
「いえ、違いますよ?」
「違うのかっ!」
「はい。国内でダンジョンの消失が確認されたのはここが始めてですよね。そしてここは人を変質させるような特別なダンジョンだった可能性が濃厚です」
「そうか──つまりまた、ここと同じように他とは異なるような、ダンジョンを消失させようとする可能性が高いと?」
「そうです。そしてダンジョン公社に所属していた目黒詠唱なら、ダンジョン公社のデータベースで特別なダンジョンについて調べていた可能性が高いと思います」
「よしっ、わかった。それじゃあ課長に報告して目黒の公社での行動を洗い直して──」
「何を言っているんですか、加藤。直接、私が公社へ行きます」
「え」
いつの間にか黒雪だるまと化していたクロが、いつものように加藤を小脇に抱える。
天駆で先に駆け出したオボロを追うように空を舞うクロと加藤。
「ま、またこれかーっ」
加藤の悲しみの声と二つの肉塊だけが、難民地区に残されたのだった。