テラトータス戦
「ここら辺に一発、入れておくかー」
俺は天駆スキルでテラトータスの前足のすぐ側を上方向へ駆け上がっているところだった。
結構な距離を駆けた気がするが、本体があるのは、まだまだ遠い。
そのため、ここら辺で一度、攻撃を試してみようとメニュー画面を開く。
──あったあった。やっぱりこれだよね
俺は救援クエストの時に追加されていた新聞紙ソードを取り出す。
しっくりと、手に馴染む。
目の前にある、巨木よりも太いテラトータスの前足。
そこに向かって新聞紙ソードを振りかぶったところで、俺は少し動きを止める。
「……えっと、確かこの前、攻撃スキルも習得してたよな──そうそう、確かスキル名は、『全力新聞紙振り』!」
俺はスキル名を告げながら、新聞紙ソードをテラトータスの前足目掛けて横薙ぎに振るう。
スキルの効果なのだろう。新聞紙ソードに、白と黒の色合いのエフェクトがまとわりついていく。
俺の振るう軌跡に沿って、その微妙にマーブルっぽいエフェクトが、まっすぐ横方向に、伸長していく。
──うーん。前も見たけどなんか、あんまり格好良くないスキルのエフェクトだよなー。まあ、スキル名が全力新聞紙振り、だし。最初に手に入れた攻撃スキルだから、たぶん初歩的なスキルで、その分、エフェクトも地味なんだろうなー。
そんな事を考えながら振り切った新聞紙ソード。特に爆音が響くとか、スキルの効果音が鳴る、なんて事もない。
どちらかと言えば、静かなほどだった。まるで先ほどまで聞こえていた風音すらも、消えてしまったかのような、静寂に俺は包まれていた。
そして気がつくと、俺の目の前には白と黒のマーブル風のエフェクトだけになっていた。
ただただ、白と黒の色が渦巻くような模様だけが、俺の視界を占める。
「……あれ? ──ああ。攻撃した部分が消し飛んだだけか」
よくみると、下方と上方には、まだテラトータスの前足が残っている。
俺が新聞紙ソードを振るった部分を中心に、白黒マーブルエフェクトの幅の分だけ、前足が消し飛んだようだった。
──このテラトータス、回復速度がめちゃくちゃなんだよな。ぼーっと観察してないでさっさと追撃しないと。
この頃になると、世界に音が戻って来ていた。俺はなんで静寂だったんだろうかと、少し不思議に思いながらも、まだ残っている白黒マーブルエフェクトを越えるように上へ。
そして、テラトータスの本体のある上空に向かって天駆でさらに駆け上っていく。
そのため、白黒マーブルエフェクトが、どこまでもどこまでも横方向に延び続けていることに、気がついていなかった。
それは、テラトータスを早く倒さなきゃという俺の意識的なものに加え、ユシが物事のかなりの部分を臭いで認識する、コボルドという種族、だという点も大きかった。
無臭の白黒マーブルエフェクトは、そもそもがユシには少し認識しにくいのだ。
ただ、幸いなことに、高い位置で俺が水平に薙ぎ払ったお陰で、地上には被害は生じなかった。
それでも、その虹の地平より発生した白黒マーブルエフェクトは、ユウトが気づかないまま国土の上空を横断し、さらにはまっすぐユウトたちの住まう星の外へと、延び続けるのだった。