邂逅再び
「メラニー」
「これが、限界」
ドーバーナの声かけに、言葉短く返すメラニー。
悪役令嬢のスキルとして召喚したテイムモンスターたちをテラトータスへとけしかけるも、テラトータスには僅かな傷を負わせるだけだった。
何よりその規格外のサイズ感は、それだけで脅威だった。
皮の厚さですら、その体高に比例するように分厚く、容易には牙や爪を通さない。
そして何よりも厄介なのは、テラトータスの驚異的な回復力だ。僅かについた傷が、すぐに消えてしまう。
それは聖女として回復魔法も習熟しているドーバーナから見ても目を剥くような、驚きの自己回復力だった。
とはいえ、脅威的なサイズ感に比例するように、その動きは愚鈍だった。
そしてテラトータスはほぼ踏みつけ以外の攻撃手段という物がないようだった。
結果訪れるのは、膠着状態だった。
メラニーのコボルドヴィラネスとしての固有のスキル、婚約破棄からの逆ハーは、十分にイケメンモンスターをボコって弱らせ、心を折っておく必要があった。
ちなみに、目の前のテラトータスは、種の中では最大級のイケメンだと、固有スキルは保証していた。
テラトータスのイケメン度はその体高の高さで判定されるのだ。
とはいえこのまでは埒が明かないのは明白だった。
ドーバーナは再びメラニーに声をかける。
「残念だけど諦めない?」
「ダメ」
「理由をきいても?」
「ドーバーナもわかってるはず。この首輪を頂いた意味を。撤退は、この首輪に泥を塗る」
「ですよねー」
そこへ落とされる、テラトータスの踏みつけ攻撃。
メラニーもドーバーナもその踏みつけを、十分に余裕をもって回避する。
更にドーバーナは、コボルドセイントとしてのジョブ固有スキル、結界を発動する。
現れた、無数の拒絶の言葉で埋め尽くされた、半球状の光のドーム。それが、テラトータスの踏みつけによって発生した飛来物を弾き飛ばしていく。
「はぁ。誰か高火力の謎の助っ人が現れてくれないものかな」
「──滅多なことを口にしない方がいい」
「どうして? 叶ってしまうから? ああ、それでメラニーは口数が少ないのね」
結界の中でそんなとりとめのない事を話しているときだった。
メラニーのジンクスとも言える心配が、的中してしまう。
二人の入った結界の前を駆け抜ける一陣の灰色の影。
それだけで、それが誰か理解してしまったメラニーとドーバーナの二人は、驚愕の表情を浮かべる。一日に二度までも邂逅するとは夢にも思っていなかった方の登場。
しかし今回はなんとか、二人とも、前回のように意識を失う醜態をさらさずに済む。
それは、ひとえに二人を包む結界のお陰で匂いが遮断されていたからだった。
目を剥き口をポカンとあけ、まるで犬のように舌を垂らした二人の眼前。偉大なるお方が、テラトータスの垂直にそびえる前足を、まるで地面かのように軽々と駆け上がって行くのだった。