テラトータス
「うわー。こんな巨大な敵も出るんだ。え、ドーバーナたち、戦うつもりなの?」
俺はダンジョン&キングダムの画面に現れた超大型のモンスターに感嘆の声をあげていた。
大きいものは、それだけでロマンがある。
超大型の陸亀っぽいモンスターの出現に、俺の中の、ダンジョン&キングダムのゲームとしての評価は爆上がりだった。
なにせ、最大限、カメラを引いても、モニターからはみ出すような巨体なのだ。陸亀特有のゴツゴツとした甲羅の上には、なんと草木が生え、軽く林のようになっているし、その中の一番大きな樹木は雲に届きそうだった。
その巨体を支える脚は左右合わせて八本もあり、その一つ一つの脚の太さはとてつもない。足跡で、軽く池が出来るほどの大きさはあった。
「あれは、流石にあの二人でも苦戦しそうですね」
ともにモニターを覗き込んでいたクロがそんな懸念を口にする。
俺がフルダイブから戻って来てから、なぜかクロもぴたりとモニターに張り付いているのだ。
俺がドーバーナとメラニーのことを、気にかけているからかと、一瞬ヒヤリとした。だが、多分それは俺の勘違いで、単なるクロの気まぐれだろう。
でなければ、まるでクロが嫉妬していることになってしまう。流石にそれはないだろうと、浮かびかけた疑問に蓋をすると、俺はテラトータスへと攻撃を始めたドーバーナとメラニーに意識を戻す。
「確かに……。ダメージは入っているみたいだけど、テラトータス、自動回復の性質があるみたいだね。ふーん。回復量が、ダメージを上回ってしまってるか」
二人は聖女と悪役令嬢としての全力を尽くしているようだったが、何せ二人の職はどちらかと言えば補助職の色が強い。
ダメージソースが明らかに不足していた。
「というか、今の全混沌で当たっても、これはヤバイかも?」
テラトータス側の攻撃はいわゆる範囲攻撃が主体のようだった。
そう言う意味では、ドーバーナの聖女としてのガード特性で、メラニーとそのテイムされたイケメンモンスターたちは今のところ十分に守られてはいる。
しかし、ダークコボルドたちの戦力を逐次投入すると、ドーバーナのガード範囲から漏れる個体が出てきてしまうだろう。
つまりは、少数戦力での撃破を目指すのが、正解だ。
「うーん。面白そうだし、俺がもう一度フルダイブしてくる」
「──かしこまりました。御武運を……」
何か言いたげなクロ。まるで少し怒っているかのような強い視線に見送られて、俺はフルダイブのヘッドセットを装着する。
消え行く意識の中に、何か呟くクロの声が聞こえたような気がした。
「……行かれるのは、ドーバーナと、メラニーに良い格好が出来るから、なんて訳ではないですよね、ユウト様?」
そのクロの呟きは俺の耳には届かずに虚空へと消えていくのだった。
◇◆
再び訪れたダンジョン&キングダムの中の世界。
目の前にそびえ立つテラトータスは本当に壁のようだった。俺はワクワクしながら天躯スキルを使用すると勇んでテラトータスの討伐へと着手するのだった。