姫
受付でダンジョン入場に関する同意文書──安全に関しては自己責任だよ、いいね?ってやつだ──を記入し終わった俺たちは、早速ダンジョンの中へと入っていた。
「病院のロビー、そのまんまなんだなー」
「はいこれ、ユウト。撮影よろしく!」
キョロキョロとしていると、早川からカメラを渡される。
「はいはい。やっぱりドローン撮影の許可は下りなかったの?」
「当然、無理に決まってるだろ」
「そりゃそうか。はい、じゃあ撮影始めるぞ」
「あっ、もう──」
何か言いかけてやめる早川。
すぐに満面の笑みを作るとカメラに向かっていつもより少し高めの声で話し始める。
「みんなーっ。こん、にち、にちーっ。ひめたんの、記念すべき初のダンジョン配信、はっじまっる、よん~──」
早川の下の名前は、姫だった。
俺は無言でひめたんにカメラを向け撮影を続ける。
──早川、少しでもバズるといいけどな。
カメラ越しに俺はそう、祈りを捧げる。そうでなければ、こんなにも必死に頑張っている早川が不憫なので。
──早川、顔の作りは良い、とは思うが……
「でねでね、ここが今回の注目ポイント、だよだよー!」
テンションをあげたまま、両手の人差し指でとある部屋の引き戸を指差す早川。
ドアの横に立っている、今回のイベントで雇われたのであろう探索者がめちゃくちゃ苦笑している。
「こんにちにちー。本職の探索者さん、でっすよねー? 撮影、オッケーですか?」
大丈夫と知ってて話しかける早川に、比較的好意的に対応してくれる探索者の彼。たぶん、こういうことをする相手に慣れているのだろう。
早川が入ろうとしている部屋は今回のお祭り用に用意された言わばアトラクションだ。
定期的に部屋の中に雑魚モンスターがリポップする。
それを係りの人──また苦笑している探索者の彼──立ち会いのもとに一人一回戦えるのだ。
もちろん、複数人で挑んでもいい。
ちなみに持ってなければ武器も入り口の受付でも借りられる。
「じゃーん。ひめたんの武器は、これだよー」
バックパックをガサゴソと漁ると、三十センチぐらいの長さのバールを取り出す早川。
なぜかピンク色だ。
「カラーリング、可愛いでしょでしょ~」
ブンブンと両手でピンクのバールを振り回す早川。まあ、あれだ。女子の細腕なので、その殴打の速度がかなりゆっくりなのは、仕方ないのだろう。
「さあ、何が、出るかなかなー。バズりの神様、ひめたんに一番いいやつをお願いだよーっ」
そう言いながら引き戸を開ける早川。
部屋の中では魔素が結実し、一体のモンスターとなってリポップした。
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