難民地区へ潜入
「いいですか、お二人とも。ここからはくれぐれも目立つ行動は謹んでいただければと。我々が目立ってしまうと、目黒の探索には大いに支障が出てしまいますから」
難民地区へと続く大きな橋に入る直前、加藤がクロとオボロを道の端に呼び寄せて念押しをしていた。
「加藤もくどいな」
「そうです。あまりにしつこいと、モテませんよ」
「いや、それは余計なお世話でしょ……」
クロとオボロの指摘に天をあおぐ加藤。
「それよりも、この新しい服は本当に似合っているのですか。ホログラムをこっそり変更してユウト様の御目にかけてみたのですが、そっと目を逸らされましたが」
クロが、猫耳つきのフードを微調整しながら加藤に確認する。
「えっとだな……」
「やっぱり加藤の目利きでは、ダメなのではないか。ほれ、ちょっとそのスマホとやらで撮影してマドカに確認してくれ」
「いや、だから、これから潜入するんだから、そういう目立つことは……」
「目立つかの? ほれ、そこの男女もやっているではないか」
オボロが島と橋を背景に写真をとっている人々を指差す。
難民地区は、実は一部地域は、観光地と化しているのだ。
復興資金と難民地区自体の膨らむ予算の補填のために、特別にカジノの営業が許可され、一部の薬物すらも特別に合法化されて島内でのみ、流通していた。
ただ、観光地として一般人が安全に立ち入れるのは、島の本当に一部、表の場所だけ。
一歩、安全とされる場所を踏み出すと、そこは貧困と犯罪の温床になっているとされていた。
そんな裏の地域へ足を踏み入れるのは、当然自己責任とされていた。
それでも、裏の地域へと踏み込む人間は後を絶たないらしい。
というのも、島の裏側には、様々な娯楽がひしめくと噂されているのだ。
ダンジョンで捕獲したモンスターと人間の賭け試合。
ダンジョン産宝物を利用した、脳へと直接介入する様々な体験の提供。エトセトラエトセトラ。
そして、加藤がまず接触を試みようしている人物も、そんな島の裏側に属する人物であった。
難民地区の裏側には、実は政府非公認のダンジョンがあるとされており、その管理をめぐってダンジョン公社は長年に渡って、密かに島の裏側の実力者とされる人物と接触を続けていた。
加藤も、何度かその人物と接触をしたことがある。一筋縄ではいかない相手だ。
その人物と、スマホの前で二人してポーズをとっているクロとオボロを会わせることを考えて、思わずため息をこぼす、加藤であった。