制圧と強化と
俺の部屋で、新品のドローンのプロペラが回転を始める。そのまま、俺の手を離れ宙へと浮かぶドローン。
そして、ぶんっという音と共にホログラムの投影が始まる。
それはすぐに空中で像を結び、見慣れたクロの姿へと結実する。
いや、よく見ると、クロのまとう服装が少し変わっているようだった。どことは指摘しにくいが装飾が増え、豪華になっているようだった。
「ユウト。ただいま戻りました」
クロがお辞儀をしながら告げる。はじめてクロのホログラムを見たときと同じ無表情。
しかし、顔をあげた時のクロの顔は、微笑みを浮かべていた。とても自然で、まるで人間のように。
「おかえり、クロ。良かった、直ったんだね。クロがいなくて寂しかったよ」
「っ!」
クロは顔を真っ赤にするとうつむいてしまう。
「恐縮です──」
小声で答えてくれるクロ。
「すごいね。目黒さんからもらった新品の機体だからかな。解像度もすごくいいし。あ、豪華に見えたのは服に刺繍が増えたからか!」
俺がクロに近づいて、その体をじっくりと見ていく。
なぜかもじもじとしているクロ。
俺が顔を近づける度に、ビクッ、ビクッと僅かにクロの体が動く。
その動きにも、ホログラムの綻びは一切現れない。
「すごい。本当に綺麗だ」
俺が解像度の綺麗さを褒め称えると、先程よりもさらに顔を真っ赤にするクロ。
そのまま、なぜか両手で顔をおおってしまう。
「ぁぅぁぅ……」
「うん? 何かいった? クロ」
「何でも、ありません……。あ、ユウト、ダンジョン&キングダム、敵性ダンジョンの初制圧ですよ」
モニターに映ったダンジョン&キングダムの画面を示して告げるクロ。
まるで俺の話を逸らしたいかのようだ。
──なんだろう。ちょっとクロ変わった? やっぱり機体が新しくなったからかな。なんだか初期の頃のクロに戻ったような感じもするけど……
俺はそんなことを考えながらも、クロから視線をモニターへと戻す。電源をつけっぱなしだったダンジョン&キングダムの画面には、コングラッチュレーションの文字が踊っていた。
「ああ、本当だ。ゴゴが勝ったみたいだね。早いなー。へー、ダンジョンを制圧すると、そこの残った敵モンスターが配下になるんだ」
リザルト画面に移ったダンジョン&キングダムで、ボーナスとして付与されるMPや手にした宝物、そして追加されたモンスターたちを確認していく。
「数は多いけど、宝物とモンスターはぶっちゃけ微妙な感じ……」
「まあ、ユウト様の混沌たちに比べればそうでしょう。使い捨てぐらいにはなるのでは? 宝物は売り払ってしまわれては?」
「うーん。確かに宝物の方は全部、売っちゃうかー。フルダイブしたとき用に、調味料とかいっぱい買っときたいしね」
俺はクロのおすすめのままに宝物の方は売却予定にしてしまう。
「ああ、MPで出来ることに、新規獲得モンスターの微強化が増えてる。コストも大したことないし、これもやっとくかー」
そうして俺は新たに獲得したMPの一部を使って新規モンスターたちの強化もしておくのだった。