お泊まり
「停電、直ってよかったよねー」
「ああ、こんなに早く直るとは思わなかったけど、本当によかった。停電してると、お湯も使えないしな」
俺たち三人は目黒さんの家を出て、俺の家に帰ってきていた。
外が暗くなり始めていたが、室内には電気の光が満ち、どこかホッとした雰囲気が流れている。
電波の基地局も復旧したようで、早川は先ほどまで、改めて母親とスマホで電話をしていた。
「そういや、ママはユウトに何、言ってたの?」
「いや、そんな大したことは話してないよ……ちょっとお茶でもいれてくる」
早川の母親からは、「ひめちゃんのこと、よろしくお願いいたします」と早川から渡されたスマホ越しに頼まれてしまっていた。
しかしさすがに早川本人にそんなことを伝えるわけにもいかず、俺は早々にその場を退散することにする。
──ふぅ。さて、そろそろ夕食の準備もしないとな。幸い、早川が食べに来るから多めに食材を準備しといて、よかったけど……あっ
俺はお湯をわかしながら気がつく。
家を出る前に潰した例のあの害虫を片付けていなかったことに。
「すっかり忘れてた。先に片付けるか……」
俺は不思議なほどに原型をとどめているそれをどうやって捨てようかと悩む。
とりあえず新聞紙ソードとチリトリをとってくると、新聞紙ソードの先で、チリトリの中へ死骸を入れる。
「壁には……うーん。染み一つないな。まあ軽く除菌だけしとくか」
俺は潰したはずの壁の場所と床に住宅用洗剤のスプレーで泡をかけるとキッチンペーパーで拭き取っていく。拭き取ったごみを片付けて、住宅用洗剤のスプレーをしまったところで気がつく。
「あ、やばい、火をかけっぱなしだった!」
ヤカンから沸騰した湯気が勢いよく出ていた。
俺はあわてて火を消す。
「ユウトー。何か手伝おうか? お風呂でも洗う?」
俺がバタバタとしていると、台所に顔を出した早川が声をかけてくる。
俺はそこでハッと気がつく。目黒さん、あの大雨に降られたから体が冷えてるかもと、早川は言いたいのだろう。すっかり失念していた。
「いや、お風呂は洗うよ。早川は申し訳ないけど、お茶をお願いできる? お茶の葉と急須はこれを使って」
「オッケー。任せてー」
俺はその場を早川に任せると、急いで洗ってしまおうとお風呂場へと向かう。
そのせいで、チリトリの中へと新聞紙ソードで押し込んだ例の物体が、いつの間に吸収されたように消えてしまったことに、気がつくことはなかった。
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天才の幼馴染みが追放されたので着いてく系、ハイファンです。
「魔導工房を自主退職に追い込まれた幼馴染み~俺は彼女を天才だとリスペクトしてるので一緒に退職してみた。」
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