いぶとクロ
「いぶちゃんは皆様を歓迎する。イサイサ、皆様を紹介して」
イサイサの帰還に喜びの仕草を示したあとに、いぶは同伴した面々を紹介してくれと促す。
「こちらは加藤」
「ようこそ」
「よ、よろしくお願いします」
恐る恐る握手を交わす加藤。
「シロたちです。みな、イサイサの使命の子達」
「「「こんにちはー」」」
「ようこそ。歓待する」
「わーい」「美味しいものある?」「お腹すいたの」
「ある」
まるで孫を見るような態度のいぶ。
「そして、こちら。クロ様、です」
イサイサが、最後にクロを紹介する。
口調がかたい。
それも仕方のないことだった。ハラドバスチャンの支配者代行にして、始まりの混沌たるいぶちゃんと、ユウトの影響によりただのドローンから進化を重ね、その影とまで呼ばれるようになったクロ。
その二人の対面が、イサイサの紹介により今まさに始まろうとしていた。
「はじめまして、クロ様。いぶちゃんはハラドバスチャンの混沌を代表して、偉大なるお方の影たるクロ様に最大限の敬意を捧げます」
そのいぶの口調はそれまでの、どこかぶっきらぼうな物とは大きく異なっている。他のダークコボルドたちのように腹見せの敬意までは示さずとも、ハラドバスチャンの混沌を率いるものとして示せる最大限の敬意が、そこにこもっていた。
「すべての敬意は偉大なるユウト様へ。私はユウト様の影に過ぎません。今ここにある、我が身体も心も、一片の欠片すらユウト様によって作られしもの。そう、貴殿と同じく」
いぶに、クロも丁寧に対応する。しかしその口調はどこか自信と、自慢がにじみ出ていた。
クロにとって、受肉した自身の肉体がユウトの手によるものであることが何よりの誇りだと感じているのだと、その場に居合わせたもの達、誰もが理解した。
「そのお言葉は大変恐縮なれど、あだむといぶちゃんは、クロ様とは違い、混ざりものに過ぎません」
「進化律ですね。それも、ユウト様の手により滅されてきます。すでに何も憚ることはありません」
「おおっ。おお……。偉大なるお方はすでに神殺しをなされたのですね」
「そうです。そしてそのために、私はここを訪ねさせていただきました。……ここからは人払いを」
「わかりました。良ければいぶちゃんの私室へ。そこなら誰も恐れて立ち入りません」
「では、そのように」
「はい、こちらです。イサイサ、あとは」
「はい。お任せください」
そうしていぶとクロは二人してその場を離れていったのだった。