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害虫といえば

「目黒さん、来てくれたんですね」

「ユウト君に、早川さん。二人とも大丈夫だったです?」


 玄関のドアを開けると、そこにいたのは、レインコートを着た目黒さんだった。その肩にはなぜかドローンが一機、乗っていた。


「私たちは大丈夫です。それよりも目黒さんこそ、びしょ濡れじゃないですか。レインコートの中まで濡れてますよね。体拭かないと!」

「──でも、あれですよね。目黒さん、俺たちに避難の声かけに来てくれたんですよね?」


 早川に続き、俺はそんな悠長にしている時間があるのかと含みを持たせてたずねる。


「あー。違うの。逆なのです。どうも道の途中が雨で崩れちゃったみたいで、避難するのは危ないって伝えにきたんです」


 そういってちらりと肩のドローンを見る目黒さん。


「そうですか……。ありがとうございます、貴重な情報。俺のドローンは、なんか壊れてしまったみたいで、助かります。さあ、入ってください。こっちが洗面所で、拭くものもあるので。早川、お願いできるか?」

「もちろん」

「……ごめんなさいです。それじゃあお邪魔しますです」


 なぜかとても申し訳無さそうな目黒さんを早川に託す。


 靴をぬぎ、歩きだしたところで目黒さんがこちらを振り向く。なぜかその片手が自身のレインコートのなかへ突っ込まれている。何かまるで大切なものを握っているかのようだ。


「ユウトくん、あとでお願いがあるのです」

「え、はい。できることでしたら……」

「良かったです。ユウトくん、害虫駆除、得意です?」

「……ものによっては、ですけど」


 目黒さんは俺が例のヌメヌメした奴があまり得意ではないことは知っているはず。多分、それ以外の奴だろうと目星をつけつつ、やや慎重に答える。


「あ、もちろんナメクジではないのです!」

「え、ユウト。ナメクジ苦手なの」

「あーあー。なんのことか、わかりません」

「あの──」

「あ、ごめんなさい。それで何か出たんですか」

「実はうちにゴキブリが……僕、あれだけはどうしてもダメなんです。今は加藤先輩も緑川先輩もいなくて……」

「あー。なるほど」


 俺はそれを聞いて、虫食が好きな目黒さんでも、黒い例の奴は苦手なのかと少し驚いた。それでも納得する部分もあった。


 ただ単に親切心でびしょ濡れになりながら避難するのは危ないよと伝えにきてくれただけ、と言うより、苦手な虫が出て家に居たくなかったという方が何となく親近感がわく。やけに申し訳なさそうにしていたのも同じ理由なのだろう。


 だいたい、俺も例のヌメヌメが出たときは同じように思ったものだ。


「わかりました。おまかせ下さい!」

「ありがとうです」


 俺は力強く受諾の返事をする。それにほっとした様子を見せる目黒さん。そのまま早川と連れだって洗面所へ向かっていった。

 それを見送った俺の前には、目黒さんの肩から飛びたったドローン。こっちも当然濡れている。


 ──これも拭いてあげるか


 俺はそう考えると布巾をとりに台所へ向かう。タオル類のある洗面所は今近づくのはとても危険なので。

 その俺の後をなぜかついてくる目黒さんのドローン。良く見ると、どことなくクロに似ていた。


 ──どうして俺の方に付いてきたんだろう? まあ、ちょうどいいか。


 俺は拭いてあげようとドローンに向かって手を伸ばす。

 その俺の手の上に、ドローンが停止する。


 ──本当にクロみたいだな。


 俺は早川と目黒さんが来るまで、台所でそんなことを思いながら、布巾でそのドローンのボディを拭いていたのだった。


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