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風と雨

 早川の顔が、とても近い。


 ──まつげ、長いんだな。


 外から聞こえてくる音は、その大きさを増すばかりだ。風も出てきたようで、窓に叩きつけられる雨粒の音がより一層室内に響く。


 ピタリとくっついた早川の体温が服越しに伝わってくる。


 次の瞬間だった。

 室内が急に暗くなる。


「──あれ、停電した?」


 まだ日が落ちるには早い時間帯だが、厚い雨雲のせいだろう、かなり薄暗い。

 俺たちはあわててスマホを取り出す。


「ユウト。電波も、ないかも」

「本当だ……。とりあえず早川はここで待ってて。ブレーカーを一応確認してくる」

「私も行く」


 俺たちはスマホ片手に連れだって洗面所へ向かう。配電盤を開けて確認するも、特に異常は無い。やはり原因は、外のどこかのようだ。


 俺はなんとなくそのまま自室に向かう。


「ふーん。ここがユウトの部屋なんだ。意外と綺麗」


 こんなときだが、どこか、からかう口調の早川。たぶん場を和まそうとしてくれているのだろう。なので軽く話題に乗っかっておく。


「まあ、片付けたんでな。普段はもっと汚い」

「それは、私がくるから?」

「まあな」


 俺は部屋の隅の充電器の上でおとなしくしているクロ(クロコ)へと近づく。


「クロ? クロ? あれ、反応ない?」


 いつもなら、声をかける前に動いているのに、全くの無反応だ。


「うん? ここ、変な跡がついてるな」


 スマホのライトを当てて見ると、クロのボディに、何かが取れたような跡があった。常日頃ホログラムをまとっていたので、いつのものかはわからないが、これがクロが動かなくなった原因かも知れない。


「どうしたの、ユウト」


 隣に来て一緒に覗き込む早川。


「いや、早川からもらったドローン、壊れちゃったみたいで。ごめん」

「ううん。古くなってたやつだし。でも……私があげたのってこんなだっけ? 暗いからかな。何か違うような……」


 不思議そうに早川が告げた時だった。


 窓の外がピカッと光る。

 次の瞬間轟く、雷鳴。


「きゃっ!」

「おっと」


 悲鳴をあげる早川。腕に軽い衝撃。


 その衝撃で俺のライトを灯していたスマホが揺れる。

 そのまま近くにあった俺のベッドに、二人して座り込む。


「──あー、早川は雷、苦手?」

「う、ううん。ちょっと暗いから。それで、びっくりしただけ」


 呟くように告げられた小声。距離が近いせいか、その声が俺の耳をくすぐる。そして早鐘のような鼓動が、腕に直に伝わってくる。


 俺は必死に意識して、早川の話した内容に意識を集中させようと試みる。


 ──えっと……。早川は否定はしているけど、多分、雷は苦手なんだろうな。せめて少しでも明るくしてあげるといい、かな。ろうそくぐらいならあったっけ……


「あー。ろうそくを──」


 そっと俺が立ち上がろうとしたところで、再び轟く雷鳴。

 腕が引っ張られて、再びベッドに腰かけてしまう。


「ごめん。もうちょっとだけ……」

「──うん」


 天候はより悪化しようとしていた。

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