色氏名筆頭
「──御用のないもの 通しゃせぬ
この子の3つの お祝いに──」
部屋に響く幼女たちの歌。幼い子供の声で歌われるその歌は、どこか物悲しい調べだ。
そこへ、周囲を気にするように、しかし断固とした歩調で部屋に入ってくるダンジョン公社の職員。そのまま、双竜寺へ耳打ちする。
「大穴の観測班からコードブラックの緊急入電です。こちら、暗号化処理済みです」
「かせ」
子機を受け取り、耳に当てる双竜寺。
「──なに。見間違いではないんだな──炎のドラゴンが大穴から現れた──」
「それは、因果律の使徒の、なれの果てですね」
「何か知っているのかっ、イサイサ殿」
子機を片手に呟く双竜寺へ告げるイサイサ。相変わらず、白羅ゆりと抱き締め合ったままだ。
「はい。あの子たちが世界へと歌いかけている初めての歌は、このためみたいです。ね、白羅ゆりさん」
歌う幼女たちへ愛に満ちた視線を向けるイサイサ。
「ええ。そのようですね。これもすべてイサイサさんの愛のおかげですわ。私のユニークスキルに、こんな可能性があっただなんて」
「ふふ。空耳はとても素晴らしいユニークスキルですね。何より、嗅げば嗅ぐほど、芳しい香りのしてくるスキルですし」
「白羅ゆりさん。どういうからくりなのか、詳しくきかせてもらおうか?」
「ダメですよ、双竜寺課長。乙女の秘密を暴こうだなんて。ただ、私とイサイサさんのユニークスキルはとても相性が良いみたいで。そのおかげで、分かったんですよ。知り得たことについては、双竜寺課長のお願い次第では教えてあげますよ?」
「──お札を納めに まいります
行きはよいよい 帰りはこわい──」
引き続き部屋に響く、幼女たちの歌。
その歌声を背に、双竜寺と白羅ゆりの駆け引きが続く。
ここで白羅ゆりに借りを作ることは、ダンジョン公社としては後々大きな代償を払う可能性がとても高い。
それぐらい、色氏名筆頭の、白羅の家の人間が油断ならないことをダンジョン公社で長年働いてきた双竜寺は身に染みて理解していた。
それでも、今この瞬間、情報は何事にも代えがたかった。
そして、双竜寺は渋々と頭を下げて白羅ゆりに教えを乞う。
そして満足げな笑みを浮かべた白羅ゆりが告げたのは、大穴の中で起きたこと。
あだむと緑川の共闘と、魂の簒奪者の撃破。そして生まれた炎のドラゴン。それが聖女によって一種のアンデッドであるとされ、あだむたちでも倒せない敵だということだった。
まるでそれらを、遠方から盗み聞きしたかのように詳細に告げると、最後に楽しげに白羅ゆりは、つけたす。
「それでは次の休みに、双竜寺課長のとっておきの美味しいお店で、ディナーを奢ってくださいな」
そしてそのタイミングで、幼女たちの歌がついに終わる。
「──こわいながらも通りゃんせ
通りゃんせ」
手を繋いだまま、ゆっくりとクロの周りを回る幼女たち。
その時だった。
ストレッチャーの上からクロの体がゆっくりと浮かび上がる。
その身体が銀色に光ったかと思うと、次の瞬間、その光が変化し始めたのだった。