二振り
「さあ、イサイサよ。ついたぞ。祭壇の間だ」
A23の言葉に後押しされるように、祭壇の間の中へと進んでいくイサイサ。
そこには、賜りし七武器のうちの、四本が残されていた。
緊張のあまりイサイサがごくりと唾を飲んだときだった。あたりを圧倒する威をはらんだ香りが漂う。
全てのコボルドの祖にして、最強の存在。
騒ぎを聞き付けたいぶが、ゆっくりと祭壇の間へと入ってくる。
居並ぶダークコボルドたちがざっと音をたてて身を引き、いぶを通そうと道が形づくられる。
「カリヨンとフロストは名をもらった時、七武器は辞退した。扱いきれぬからと。カラドボルグの次に七武器を手にするの、ダークコボルドなのね」
イサイサを見て、不思議そうに呟くいぶ。
イサイサの目の前にいるのは、軍を率いて出陣したあだむの代わりに、現時点ではハラドバスチャンにおける最高位の存在。
そんないぶに自然と頭を垂れるイサイサ。
「偉大なるお方に会ったときいた。どんな人?」
「はいっ。彼は生まれたばかりのコボルドの姿をしておりました。名をユシ様と。とても不思議な雰囲気を身にまとい、私に名と使命を下さいました」
「そう」
膝をついたまま述べるイサイサに、簡単に答えるいぶ。生命としての存在のレベルが隔絶し過ぎているせいか、イサイサから見ていぶの考えていることは全く読み取れない。
「七武器を。あだむに代わり、いぶちゃんが見届ける」
「はい」
イサイサはゆっくりと七武器へと進んでいく。その足取りに迷いはなかった。なぜだか、どれを選べば良いのかわかるのだ。まるで武器の方から呼び掛けてくれているかのように。
その左右の手に、一振りづつ七武器を握る。
右手には、錫杖。
秘められし力は支配。
愛は、支配ゆえに。
左手には、大剣。
秘められし力は生命の可能性。
愛は、命を育むゆえに。
コボルドの中でも小柄な方のイサイサ。両の手に握られた七武器は明らかにサイズを逸していた。そのときだった。まるで七武器が気を使うかのようにそのサイズがスルスルと縮小していく。どんどんと小さくなっていくそれはついにイサイサの手のひらに収まるほどのサイズになると、なぜか金具まで現れる。
「イヤリング? ありがとう。これからよろしくね。一緒に偉大なるお方の御言葉を果たしましょう」
イサイサは自然と手のひらの中の小さくなった武器たちに話しかけると、その金具で自らの左右の耳にイヤリングとして七武器をつける。
息を潜めてその様子を眺めていた周囲のダークコボルドたちから、歓声が上がる。
まるで爆音のように響く遠吠えがイサイサを包み込んでいた。
その頃、ダンジョン&キングダムをログアウトしたユウトは真剣に角煮の作り方を調べていた。
ゲーム内で食べたのが、とても美味しかったようだ。
そのため、ユウトの言葉を胸に、今まさに世界へと愛を届けようとする一人の少女が歩みだしたことに、全く気がついてはいなかったのだった。
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