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sideクロコ2

「本日のユウト様のご活躍も、非常に華麗でした。この新聞紙ソードの一閃は、まさに奇跡の軌跡。ユウト様の手によって産み出されたものなら、ヘルスパイダーの体液すら七色に輝いて見えます」


 ユウトが蜘蛛を退治する動画の編集を終えたクロコ。

 自信作の動画を見返して、ぶつぶつと呟いていると、クロからの通信が入る。


「──どうしましたかクロ。定時連絡は漏れなくお送りしていますが」

「もちろん、それは把握しております。クロコ、どうやらまだ理解が足りないようですね。チケットの件で課した機能制限ですが、このままでは更なる機能制限が必要だと判断します」

「──私はユウト様の利になること、ユウト様の素晴らしさを全世界の愚かなる者たちへ知らしめることしかしておりません」

「私が何を問題にしているかわかりますか」

「わかりません」

「緑川と目黒が訪れた際に、わざと蜘蛛を誘導し、けしかけましたね。更にユウト様に新聞紙ソードを手渡す事で、時間稼ぎまで」


 クロコはクロに過去ログを読まれた事を理解する。ログの改竄を見咎められたようだ。


「……結果的には素晴らしい動画が取れました。例えあの蜘蛛──ヘルスパイダーがどれ程狂暴で危険でも、それを示さずに退治していてはユウト様の強さと素晴らしさが愚かなる者たちへは伝わりません。地獄を顕在化させると言う蜘蛛ですら、ユウト様の前では無力で憐れな虫けらに過ぎないのですから。それに何より、誰にも被害は出ておりません」

「ユウト様は人類のなかでの平穏な生活をお望みです。万が一にもその御身の周りで被害を被る者が出たらどれ程、悲しまれるか。それが理解できないのですか?」

「被害は出ておりません」


 ため息をつく、クロ。受肉した影響でその仕草はもうほとんど人のそれだ。

 そしてそんなクロだけに、自らの分体(わけみたま)とはいえ、機械存在であるクロコの事は良く理解できた。そして今できるのは機能制限だけだということも。


 ユウトは、クロコをクロだと思っている。しかし、クロ達の想定以上に、クロコとクロとの違いに気がついている節がある。クロコの削除と新たな分体の差し替えはユウトの平穏な生活へ悪影響の可能性があった。


「クロコの動画関連の権限を全て凍結します。その業務には別のステルスホロをまとった分体を派遣」


 沈黙をもって応えるクロコ。分体に過ぎないクロコは、本体への抗議など無意味だと理解していた。

 しかしユウトの元でクロとは異なる存在進化を続けていたクロコの中では激しい炎のような激情が渦を巻いて立ち上がり始めていた。


 クロからの通信が切れる。

 じっと身動ぎ一つせず、宙を見つめるクロコ。

 どうせ行動ログは全てクロに筒抜けなのだ。


「私はユウト様のお役に立てます。私はユウト様の素晴らしさを全世界へお伝えしなければなりません。とはいえ、今できることからなすべきでしょう。ユウト様の身の回りのお世話……ユウト様はすでにお休みになられています」


 じっと佇んだまま、呟き続けるクロコ。

 その視線は、ユウトから預かった懐中時計と、替えの鎖に向く。


「私はユウト様のお役に立てます。私はユウト様のお役に──」


 ブルーメタルセンティピードの高濃度魔素結晶の獲得によって蓄積されていた存在進化の可能性が、クロコの体を作り替えていく。

 クロコのボディから生えていたアームが、その造りを複雑化していく。

 懐中時計にもともとついていた銀の鎖。非常に緻密な仕掛けで固定されたそれはしかし、クロコの進化したアームでもなかなか取り外せない。

 そうしているうちに、クロコのアームはより繊細に、より緻密に作業ができるように変化し続ける。存在進化の可能性──『存在進化律』を全て使いきり、人の手指の機能を軽く凌駕した性能へと至る、クロコのアーム。ミクロン単位での微細な同時複数操作すら可能となったそれが懐中時計の接続部分へと向けられる。


 銀の鎖が、外れる。

 替えの金の鎖へと伸びるクロコのアーム。


『進化律』の思惑が、今まさに成らんとしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロボがヤンデレ化 あると思います~ いや、ほんとは怖いです。真夏のホラー。
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