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ブリーフィングルームに詰めに詰めた航空隊員たち。藤乃が見知った顔もいれば、知らない隊員もいる。以前より人数が増していることを藤乃が尋ねると、イングリットは志願者が増えたのよ、と答えた。
「全員、起立」
イングリットの号令で、航空隊員が全員立ち上がり、姿勢を正す。
壇上に上がった艦長のグロリアが「やすめ」と合図し、隊員たちは席に座った。
「日頃の出撃と戦闘、いつも皆の頑張りにスパルヴィエロは支えられている。まずはそのことに、全艦乗員を代表して、私から感謝の意を述べたい。ありがとう」
艦長は小さく会釈をし「早速だが」と話を切り出す。
「君たちに集まってもらったのは、特務航空隊の再編について発表するためだ。この度、スパルヴィエロの航路から大きく外れた敵を強襲するための、遊撃航空小隊を編成するこ
ととなった」
航空隊員たちがざわついた。
だが、驚いた隊員はいないようだ。トーネードの機種転換訓練の中に長距離巡航訓練が含まれていたので、誰が明かさなくとも隊員たちの中でも噂になっていたようだ。
「小隊長には碓氷藤乃少尉。メンバーはペトラ、ヒルダ、ヴェロニカ、そしてシェイミ―の五名で小隊を組んでもらう」
ヒルダとヴェロニカはミュンヘン防空隊からの移籍組だ。トーネードの扱いにも長け、また実戦経験も豊富である。シェイミーは先月入隊したばかりで機種転換訓練の結果は及第点ギリギリではあったが、元整備クルーで航空隊への志願兵という経歴から藤乃がスカウトした。スパルヴィエロからの支援が受けられない作戦行動中に、シェルヴールの整備に慣れた仲間がいるのは心強い。
「名前を呼ばれなかった諸君は、スパルヴィエロ直掩防空隊に編入される。小隊長はスサンナ・ラークチカ中尉。二つの小隊を総括する航空隊隊長には引き続き、イングリット・アガヴェル大尉に就いてもらう。異議のあるものは後ほど、艦長室に抗議に来たまえ。以上だ」
艦長が出ていくと、静まり返っていたブリーフィングルームが、一斉にわっと歓声に包まれた。藤乃が見ていると、ヒルダとヴェロニカが周りの航空隊員から肩を叩かれて祝福されている。いつも二人でいるヒルダとヴェロニカが航空隊に馴染めていないのではと心配していた藤乃だが、杞憂だったようだ。
「ウスイ少尉」
藤乃の前に立ち、敬礼をしたのはペトラであった。藤乃もペトラに敬礼を返す。
「隊員に選んでいただいて、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ルームメイトとしても」
藤乃とペトラは敬礼を解いた。
「ホアン少尉は戻らなかったのですね」
「はい。でも、これからもブリッジクルーとして航空隊を支援してくれるそうです」
「現場を知っている人間がブリッジクルーとして入ってくれるのは、航空隊としてもありがたいですね」
「はい。リンファに託された分まで、私が飛びます」
「託される……ですか。いいですね、そういうの」
ペトラの顔を見て、藤乃は目をみはった。
表情筋が、ピクピクと痙攣している――――ペトラが、笑おうとしていた。
まるで、これまで感情なんて何も経験したことのないロボットが、無理やり笑おうとしているかのような。不器用でぎこちない変化。
だが藤乃はそれを見て、顔のほころびが収まらなかった。
ペトラの感情が回復しつつある。これはその兆しだ。それはペトラ自身にとっての希望であり、またセイバーモードですでに感情を失ってしまった皆の希望でもある。
「はいっ! とっても、いいことですね!」
藤乃の笑顔に、ペトラも合わせようとしている。ここまでの幸せを藤乃が感じたのは、きっと生まれて初めてであった。
後日。再度集められた航空隊員たちの前で、藤乃は二つの徽章を受け取った。
一つはスパルヴィエロ特務航空隊、遊撃航空小隊小隊長のワッペン。翼を広げたハチクマの図柄が描かれている。その背景に描かれたのは、藤乃によろしく富士山であった。
もう一つは新しい階級章。少尉のものから星が一つ増えた、中尉のものである。
艦長からは「指揮系統を明確にするため」と説明されたが、藤乃の昇進に異議を唱えるものはなく、航空隊員全員から祝福された。
この場にキャサリンもいたなら――――藤乃はありえないことを考えてしまった。どんな言葉で、藤乃を励ましてくれただろうか。




