表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/78


「……おうっ」


 藤乃の行動に驚きの表情を見せたイヴ。だが、その色は瞳からほどなく消失する。

 がくり、と首が折れ、イヴの手足から力が抜けた。

 倒したのか――――藤乃が大太刀を握る手に込めていた力を緩めた、その時であった。


 イヴが自身に絡まっている糸をぐいっと掴む。

 ニッと笑った顔で藤乃を見るイヴ。これは罠だ――――藤乃がそう気づいた瞬間には、もう手遅れであった。藤乃が突き刺した大太刀の傷口から、有機繊維の糸が破裂したように噴き出す。

 噴き出した糸は一瞬のうちに藤乃を絡めとってしまったのだ。


「くっ……!」


 イヴの掴むペトラの糸が、イヴの触れたところからその色を変えていく。純白の、絹のような細い糸は青白い、空に溶けるような水色へと変化している。

 根拠はないが、藤乃はイヴが何をしようとしているのかを理解した。イヴは、藤乃とペトラを取り込もうとしている。


「ペトラさん! 糸を切って!」


 イヴを拘束していた糸を手放すペトラ。だがそれと同時に糸の牢獄も解けてしまう。

 両腕を真後ろへ向けたイヴはペトラにがトンリング砲を浴びせる。ペトラはなんとかガードし致命傷は免れたものの、翼と足に損傷を追って撃墜された。

 セイバーモードが切れ、落ちていくペトラ。それを横目に見ながら、藤乃は自身を縛り付けるイヴの有機繊維からの脱出を試みるが、糸は動けば動くほどより複雑に絡まり、藤乃の自由を奪っていった。


「私を……食べるつもりか!」

「おまえも、わたしの糧になる」

「おまえ『も』って……まさか隊長も……!」

「あいつは失敗した。食べようとしたら、自爆された」


 だったら、と藤乃も心神改のリミッターを解除しようとしたが、すぐにイヴに阻止されてしまう。システムが完全にオーバーライドされ、心神改のセイバーモードも切れる。


「同じ失敗は、繰り返さない」


 ぞくり、と背筋に悪寒が走る。

 心神改のアンダースーツを貫き、イヴの糸が藤乃の体に突き刺さった。


「ひっ」

「おまえとわたし、同じ。一つになる」


 イヴの有機繊維が、藤乃の神経系を犯している。体の中、頭の中の奥底を、何か得体の知れないものに土足で踏み入られている。藤乃は歯を食いしばった。


「同じじゃない……! お前は、ニセモノだ……イヴの、『私』のッ!」


 両腕を縛っていた有機繊維を、藤乃は握りしめた。

 イヴ・レプラカーン。人類を救った、奇跡の少女の名を騙るセプテントリオン。だが彼女がニセモノであることは、藤乃自身が一番良く知っている。藤乃が、本当のイヴその人

だからだ。

 ニセモノのイヴは、シェルヴールの糸を侵食して自分のものにしていた。だったら、オリジナルのイヴである藤乃にも、同じことが出来るかもしれない。それは藤乃にとって、賭けてみる価値のある可能性であった。


「お前は……私がっ!」


 腕に力を込める。

 藤乃の神経線維はセプテントリオンと同等の力を持っている。シェルヴールをも侵食しようとするその神経線維だが、藤乃はその力をコントロールする術を知らない。一体どうすれば――――。だが、藤乃に迷っている時間はなかった。

 今ここで、藤乃がその力が使えなければ、藤乃はイヴに吸収されてしまう。


「おまえ、わたし、しんか。おまえ、わたし、しんか。おまえ、わたし――――」


 うわごとのように呟くイヴ。藤乃は顔を近づけてくるイヴに嚙みついてやろうと口を開いたが、当然届かない。

 しんか? イヴは何を言っている?



  ――――藤乃!



 声が聞こえる。

 それは、心神改を通じて聞こえた、すばるの通信だった。


『藤乃! 今から心神改のプロテクトをマニュアルに切り替えるから!』

「へ?」

『セプテントリオンの侵食はこっちで防ぐ! 藤乃は思いっきり戦って!』

「すばる……」

『藤乃が空を守るなら、藤乃を守るのは私の仕事! これが私の、答えだから!』


 心神改が、アームドモードのままシステムダウンする。イヴの繊維がぐいと深く侵食してきたが、藤乃は歯を食いしばり、冷や汗を流しながらも耐えた。


「そうだ……私を飛ばせてくれるのは、私だけの力じゃない……!」


 うわごとを呟いていたイヴの口が、言葉を発しようと開いたまま硬直する。

 異変に気付いたときにはもう遅い。イヴが突き刺した有機繊維は、藤乃の側からだんだんと淡い紫――――「藤」の色に変化し始めていた。


「私の力は、私だけのものじゃない!」


 イヴが糸を切り離す。藤乃はそれを根本まで侵食し、自分のものにした。


「セイバー、モード!」


 心神改は繭を介さずに変形し、藤乃の姿をセイバーモードのそれへと変貌させる。奪ったイヴの糸は、両手に握った二振りの太刀になった。

 藤乃に慄いたイヴが距離をとるが、藤乃は一気に距離を詰め、イヴが自分をかばった左腕を切り飛ばした。糸にほぐれたイヴの腕は、藤乃の太刀に吸い込まれて消える。


「……怖いの、私が」


 イヴは完全に戦意を失っていた。

 目は見開かれ、口は開いたまま。腕を再生しながらよろよろと後ずさり、藤乃から逃げようとしている。


「その恐怖は、お前が私たちに与えたものだよ」


 右腕をガトリング砲に変形させるイヴ。だが、その銃口を向けるより早く、藤乃は動いた。

 イヴの目が、藤乃を追い切れずに上下左右に震える。次の瞬間には藤乃はイヴの背後にいて、イヴの右腕は肩から先が切り刻まれて消失していた。


「よかったね。『怖い』って感じられて」


 イヴは、藤乃にはない「恐怖」の感情を持っている。藤乃にはそれが、すさまじく恨めしくもあり、羨ましくもある。

 後ろ向きのまま、藤乃は逆手に持ちかえた太刀二本をイヴの背中に突き刺す。

 藤乃の太刀は、イヴの胸を刺し貫いた。


「……言ったでしょ。とびっきりの悪夢、見せてあげるって」


 イヴが体をひねろうとするより早く、藤乃は太刀を握って力任せに振り回した。

 藤乃に細切れにされたイヴが、綿になって飛び散る。


 イヴ・レプラカーン。奇跡の少女の名を関したセプテントリオンは敗れ、その称号は元の持ち主へと返還された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ