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第8話 やるべきことより、やりたいことを①

 藤乃たちは租界内にあるレジーナ家の別荘へ招かれていた。

 食卓には豪華な料理が並べられている。サラダや乳製品、肉類――――スパルヴィエロでも手に入らないような、藤乃が見た事もないような食材ばかりだ。


 向かいに座るペトラは信じられないようなスピードでそれらを頬張っている。「レジーナ家の婿として相応しいマナーや振舞いを身に着けてもらう」とか言ってたくせに、と藤乃も呆れたが、親が決めた婚約者の前で無礼な振舞いをし、幻滅させる作戦なのかもしれないと思い黙っていた。

 その、当の許婿殿の様子はどうか。藤乃が視線を向けると、ランベルトはアルバートと何やら話し込んでいるようだった。聞き耳を立ててみれば、先ほど見せられた「セイバーモード」の話である。


「ほう、あれはセプテントリオンと同質の力であると」

「そうです。もともとシェルヴールは『イヴ』から回収された有機繊維サンプルを培養して製作するものですから、出自からしてセプテントリオンと同質のものなのですよ」

「危険はないのでしょうか。あのセプテントリオンを『着る』なんてことに」

「ええ、ありませんよ。セプテントリオンとシェルヴールの有機繊維は、出自こそ同じでもその性質は全くもって別物。我々人類はサルから進化しましたが、サルと我々は同一の存在ではないでしょう」

「なるほど」

「まあ、副作用がないわけではありませんがね」


 アルバートはディナーにがっつく孫娘に視線を移している。


「セイバーモードを稼働させるエネルギーは、装着者の体から供給されます。使用した後は、軽い飢餓状態になってしまうのですよ」

「ああ、それで」


 ランベルトもペトラのほうを見やる。

 食器をちゃかちゃか鳴らしながら食べる行儀の悪いペトラであるが、二人はそれを咎める様子はない。

 ペトラの振舞いが、セイバーモードを使って起きた飢餓状態に起因するものであることを知っているからだ。


「……それは安全とは言えないのではありませんか」


 二人の会話にイングリットが割り込む。彼女も二人の会話を聞いていたようだ。


「レジーナ少尉がセイバーモードを使用したのはほんの数秒でした。それだけで飢餓状態になるようでは実用的とは言い難いです」


 セイバーモードを使う状況とは、すなわち戦場の只中である。


「戦場ではそうそう栄養補給なんてできませんよ」


「そうですね、大尉」アルバートは何を当たり前のことを、とでもいいたげな態度でイングリットに答える。「ですが、セイバーモードは戦場でこそ真価を発揮するといってもいい」


「どういうことです?」

「セプテントリオンの生態の一つ、それが『捕食』です。セイバーモードはセプテントリオンを逆に捕食しかえし、それをエネルギーに変換できるのです」


 アルバートは自信満々に答える。


「例えばこのテーブルを地球だとしましょう。で、あるならばここに並んだ料理は我々人類やこの地球に生きる命だ。それをセプテントリオンは自由に捕食してきたわけです」


 アルバートはフォークで目の前の皿に乗っていたカプレーゼを掬いあげて頬張った。


「セプテントリオンが地球の生命を無制限に食らうことが出来たのは、地球にある命がただの『料理』だったからに他なりません。料理は食べられて消費されるためにある」

「私たちは料理なんかじゃ……!」

「そうです。私たち人類はただセプテントリオンに食べられるために生きているのではない。知恵を絞り、それらに対抗するためのシェルヴールを得、租界にドームを作り暮らしてきた。だがそれでも彼らに打ち勝つことはできなかった。我々にできることは、皿の陰に隠れて彼らをやり過ごすくらいでした」


 行儀の悪い食べ方をするペトラの口元から、キュウリの一切れがこぼれ落ちた。ペトラはテーブルに落ちたそれを拾い上げて口に放り込む。

 テーブルを地球、そこに乗った料理が命なら、それを食べるペトラはセプテントリオンに対応するのだろう。皿に乗った料理である以上、その口から運よく逃れたとしても、またテーブルに逆戻り。ペトラの口――――すなわち、セプテントリオンに捕食される運命から、人類は逃れることはできない。


「我々はこれまでセプテントリオンとの戦いで小さな勝利を重ねてきました。スラパラン奪回戦、ブエノスアイレス、ウナラスカ……この要塞化したアンカレッジ租界も、何度もセプテントリオンの群れを撃退してきました。それでもまだまだセプテントリオンの脅威は人々の命を、生活を脅かし続けている。このまま局地的勝利を重ねていても、人類に未来はないのです」

「そのために私たちに人柱になれ、と?」

「大尉は物事を悪く捉えすぎですよ。なぜ我々レジーナ工廠がみなさんを人柱にするなんて思うんです? 艦には孫娘のペトラも一緒に乗っているというのに」


 アルバートは終始にこやかであったが、その瞳の奥には何者にも覆せない、確固たる信念があるように藤乃には見えた。


「セイバーモードは真の意味で、地球を救う『救世主』たる存在を生み出すことができるでしょう」

「そしてその旗頭に、ペトラさんはなるのですね」


 アルバートとランベルトがわははと笑っている。だが、それを見るイングリットはうつむいたまま、苦虫を噛み潰したような顔で拳を握りしめていた。

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